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 できれば言いたくなかったのだが、ここまできたらしかたがない。そう腹を決めて、顔を見合わせているふたりに事情を話す。もちろん、かいつまめるところだけかいつまんだものだ。 「それで、その、ちょっと接客のほうも立ってほしいって言われて。まぁ、出れる日だけ出てたんだけど、たまたま、そこで一基さんとばったり」 「たまたま」 「そう。たまたま。偶然」  不審そうな顔に向かって、笑顔で繰り返す。 「たまたま、お店に来てて、――それで、まぁ、気にしてくれたんじゃないかな」  なにも昂輝に言ってくれなくてもいいのになぁと思わなくもないが、なにかしらの世間話のなかで飛び出したのかもしれないし、そうなると自分がどうのと言えるものではない。けれど。  ――先週の木曜会ったときも、なにも言ってなかったけどなぁ。  むろん、泊めてもらった日の翌朝も。そんな話はいっさいしていない。  そのときだって、なにもなかったように――まぁ、本当になにもなかったし、あるわけもないのだが――、当たり障りのない会話を交わして家を出た。それだけだった。 「……いろいろ言いたいことはあるんですけど、今はしてないってことでよかったですか、それ」 「うん、もちろん」  本当にいろいろと言いたいことを呑み込んだような顔だったので、浅海はすぐさま頷いた。今してないのは事実だ。というか、達昭が夜のシフトに入れてくれない。  裏方にも入れなくなったおかげで、夏休み中の貯金計画も大幅に狂いはしたのだが。 「そうですか」  じっとこちらを見つめていた瞳が、ふいと逸れていく。 「なら、いいです」  拍子抜けするほどあっさりと折れられた上に、そのまま踵を返されて、思わず引き留めてしまった。
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