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「昂輝?」 「今日ちょっと用事あるんで、先に帰ります」  返事はあったものの、振り返りもしない。頑なな背中が見えなくなってから、浅海は幼馴染みに疑問を投げかけた。 「どうしたんだろうな、昂輝」 「どうしたんだろうな、じゃねぇだろ」  風見の怪我の理由を聞いたときの倍は呆れている上に嫌そうな声だった。 「おまえのそれ、たまに天然なのかわざとなのかわからなくなるわ。昔から知ってるはずなのに」 「え?」 「わかるだろ、ふつう」 「ふつうって……」  とぼけているつもりはなかったのだが、苛立ったふうな溜息を吐かれてしまった。 「本当は言うつもりなかったんだけど。このあいだ、……二週間くらい前だったか? 俺にすげぇ適当な連絡ひとつでスマホの電源落としてたことあったろ。おまえ、あのときどこいた? 友達のところって嘘だろ」 「えっと……」 「八瀬さんだっけ? その人のところだよな」  確信を持った問いに、少しだけ間を置いてから、うんと頷く。誤魔化せる気もしなかったからだ。 「ごめん。そうだな、友達っていうのは嘘だ」  にこりといつもの調子でほほえむと、また溜息を吐かれてしまった。なんだか、最近はこんな顔ばかりさせている気がする。 「謝るのそこかよ」 「だって、……まぁ、怒ってるし」 「ほかにも思い当たってる理由あるだろ。そっちはどうなんだよ」  ないなら、嘘吐く必要がないだろ、そもそも。続いた台詞に、浅海は困ったふうに眉を下げた。
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