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「そういう顔されるかなって思ったから。余計な心配させる気もなかったし」
「そういう顔されるようなことをするのをやめるっていう発想はないのか、おまえには」
「いい人だよ。俺の主観だって言われたらそれまでだけど。俺は、あの人はすごく優しい人だと思う」
心配してくれることはありがたいと思うし、申し訳ないとも思う。けれど、そんなふうに気を揉む必要はいっさいない。
あくまでも大人として、常識的に優しく接してくれているだけなのだ。声をかけてくれたのも、泊まらせてくれたのも、ぜんぶそうで、それだけのこと。
そう言い切ると、呆ればかりだった侑平の顔に戸惑いが浮かび上がった。どうしたんだろうと内心で首をひねる。
それほど信じられないようなことは言っていないと思うのだが。
「おまえ、もしかして……」
「え? なに」
「いや、なんでもない」
とてもなんでもないというふうには見えなかったのだが、幼馴染みは振り切るようにして小さくかぶりを振った。
「それはそうとして、あれな、里奈が気にして俺に電話してきたから、わざわざ連絡入れたんだぞ。あいつもあれで気ぃ使ってんだから、あんまりそうやって心配されてないって思うのやめろよ」
「うん、そうだな」
「あのな、浅海」
トーンの下がった声に半ば反射で張り付けた笑顔は、冷めた視線で一蹴されてしまった。そうして続いたのは、いかにもお説教といった台詞で。
「おまえ、結局、佐合にちゃんと話してやってないだろ。達昭さんのほうのバイトじゃなくて、もう一個のほうな。どうせ佐合がなにも言わないから、もういいだろうって勝手に思ってたんだろうけど」
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