7/11
前へ
/104ページ
次へ
「だから、いいんだよ。おまえが認められるなら、それで」 「……うん」  でも、わかっている。これは認めたら駄目なことだ。認めたら、きっとあの人は離れていく。認めたら、あの人にとっての面倒になる。そばにいられなくなってしまう。  わかっている。あの人が優しくしてくれるのは、今の自分たちの関係がちょうどいいからだ。特別な思いなんてなにもない。だからバランスが崩れたら、それで終わる。終わってしまう、きっと跡形もなく。  それだけは嫌だった。  ポケットに入れていたスマートフォンが光ったのが目について、浅海は手を伸ばした。八瀬の名前が見えた気がしたからだ。  今見るのかよという視線を無視して確認した内容に、表情が曇りそうになる。 「どうかしたのか?」 「なんでもない」  画面を見つめたまま応じて、返信を打つ。八瀬には「わかりました」以外の返事をしたことがないかもしれない。多分に漏れず今日もそうなってしまった。  自分から用もないのに連絡なんてできないし、八瀬からも明確な用事があるとき以外はなにもない。そういう、関係。 「浅海?」 「本当になんでもないから」  再度の呼びかけに、浅海はスマートフォンをしまって、笑顔を向けた。本当に心配させるような連絡ではなかったし、どちらかと言うと、昂輝や侑平が安心する類のものだったと思う。  それでも内容を言いたくはなかったけれど。 「でも、いろいろとありがと。迷惑かけてごめんな」
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

506人が本棚に入れています
本棚に追加