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「だから、いいんだよ。おまえが認められるなら、それで」
「……うん」
でも、わかっている。これは認めたら駄目なことだ。認めたら、きっとあの人は離れていく。認めたら、あの人にとっての面倒になる。そばにいられなくなってしまう。
わかっている。あの人が優しくしてくれるのは、今の自分たちの関係がちょうどいいからだ。特別な思いなんてなにもない。だからバランスが崩れたら、それで終わる。終わってしまう、きっと跡形もなく。
それだけは嫌だった。
ポケットに入れていたスマートフォンが光ったのが目について、浅海は手を伸ばした。八瀬の名前が見えた気がしたからだ。
今見るのかよという視線を無視して確認した内容に、表情が曇りそうになる。
「どうかしたのか?」
「なんでもない」
画面を見つめたまま応じて、返信を打つ。八瀬には「わかりました」以外の返事をしたことがないかもしれない。多分に漏れず今日もそうなってしまった。
自分から用もないのに連絡なんてできないし、八瀬からも明確な用事があるとき以外はなにもない。そういう、関係。
「浅海?」
「本当になんでもないから」
再度の呼びかけに、浅海はスマートフォンをしまって、笑顔を向けた。本当に心配させるような連絡ではなかったし、どちらかと言うと、昂輝や侑平が安心する類のものだったと思う。
それでも内容を言いたくはなかったけれど。
「でも、いろいろとありがと。迷惑かけてごめんな」
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