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「いや、べつに、それは……。っか、迷惑じゃねぇし」
「うん」
まぁ、侑平ならそう言うだろうとは思っていたけれど。ありがと、ともう一度伝えてから、帰ろうかと提案する。
明日の八瀬の家に行く予定だったアルバイトもなくなってしまったし、今日はもともと風見の店でのアルバイトは入っていなかった。
不承不承という顔で頷いた幼馴染みと一緒に学校を出て、家に向かう。家にいつもまっすぐ帰るわけでもないから、早く帰れるときは妹の相手をしないといけない。そんなふうなことを話しながらも、頭の片隅にはさきほどのメッセージの文面がちらついていた。
――来なくていい、か。
それが、八瀬から来ていたメッセージのすべてだった。
忙しいから、という枕詞も付いていたし、今週と来週は、という限定された期間も明示されていた。けれど、今までだって忙しいことはあっただろうし、顔を合わせない日もあった。それでもなにも言われなかったのに、急にこんなふうな連絡が来るということは――。
面倒になってきたのだろうか、とも思ったけれど、もっとありうる選択肢が残っている。
自分の気持ちになにかしらの変化があったことに気がついたから、距離を取ろうとしているのではないか、ということだった。
想像でしかないけれど、いかにもありえそうな気がした。あの人と会っているところを直接見ていない幼馴染みでさえ気づいたのだ。八瀬が気がつかないわけがない。彼は聡い、大人の男だ。
気をつけよう。何度目になるのかわからないことを心に誓い直す。そうでなければ、この関係が終わってしまう。
それだけは、やっぱり嫌だった。自分のわがままでしかないと、わかっていても、どうしても嫌だった。
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