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――でも。
「いらないって言われるの、こんなにきつかったんだな」
幼馴染みや自分に特別に懐いてくれている後輩。そういった特例を除いてしまえば、意図的に特別をつくらないようにしていた自覚が浅海にはある。だって、特別だと心を許したあとに捨てられることはつらい。
そのはずだったのに、自分はいつのまにか、勝手に彼を特別視していたのかもしれない。
もう、誤魔化せないくらいに。
――だから、どうにかしないとまずいよな、本当。
改めて、浅海は自身に言い聞かせた。あるいは、八瀬がやんわりと示してくれたように距離と時間を置けば、もとに戻ることもできるのだろうか。
そんなことばかりを考えていたから、そのときの浅海は後ろから近づく誰かにまったく気がついていなかった。
「ねぇ、きみ。ちょっと」
すぐ近くで響いた声と、肩に置かれた手。そのどちらにも驚いて振り向いた瞬間、脇腹に走ったのは鋭い痛みだった。バチバチと鳴る音と暗がりに光る青い電流に、突然の痛みの理由を悟る。スタンガン。
……まずい。
襲われた理由に見当はつかないが、これはまずい。逃げるべきだと警鐘が鳴り響いているのに、膝が折れる。力が入らないのだ。夜にぼーっとひとりで歩いてると危ないよ、と笑っていた八瀬の声。本気にしなかったのは自分だ。
夜の闇に紛れ、相手の顔は見えない。動けないままスタンガンを首に押し当てられ、浅海の意識はそこで途切れた。
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