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鈍い痛みで、ゆっくりと意識が覚醒する。痛いのは、たぶん、鳩尾のあたりだ。なんでそんなところが痛むのだろう。
わからないまま身を起こそうとしたところで、不意に腕が強張った。
「え……?」
動かない。認識した途端、一気に目が覚めた。家に帰って、眠りについた記憶はない。じゃあ、なんで、……というか、ここはどこだ。
焦りそうになる感情を抑え、状況を把握すべく視線を巡らせる。自分が寝ているのは大きなベッドだった。生活感のない、きれいな部屋。ホテルかもしれない。
身に付けているのは、制服だ。そうだ。アルバイトの帰りに、誰かに声をかけられたと思ったら、スタンガンを当てられて、それで――。
誘拐。自分に降りかかるとは想像もしなかった単語が脳裏を過ぎる。どうにか起きようと試みると、頭上で金属音が鳴った。
……手錠?
はっと視線を持ち上げる。両手に嵌められた手錠の鎖が固定されているせいで、身動きが取れなかったのだ。
――でも、なんで。
こんな事態に陥っている意味がわからない。手錠を揺らしてみたものの、外れるわけもなく。手首が痛むだけに終わった。
落ち着けと言い聞かせ、改めて部屋を見渡す。浅海はそこで機材の存在に気がついた。
おそらくは、自分が映るように調整されたビデオカメラ。ジー、と小さく響く音に、進行形で撮られていることを悟る。
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