3/18
前へ
/105ページ
次へ
「はじめまして? 藤守浅海くん」  名前を知られている事実に、浅海はぞっとした。 「なん、で……」  行きずりに狙われたわけではないことはわかった。けれど、では、なぜ。口をついた疑問に、男が笑みを深くする。  おそらく、八瀬と変わらないくらいの年だ。そうして、どこか八瀬と似た雰囲気の身なり。  ――やく、ざ?  でも、だとしても、どうして。次から次へと疑問ばかりがあふれていく。 「わかんねぇって顔だな」 「なん……、あんたっ、――ッ!」  一歩、二歩と。ゆっくりと近づいてきたと思った次の瞬間、頬に衝撃が走った。一拍遅れて、殴られたのだと気づく。  その浅海を見下ろし、男は楽しげに目を細めた。 「とりあえず、口の利き方と態度には気を付けろよ? 浅海、くん」  口の中に血の味が広がると同時に、怖いという実感がひしひしと迫り始めていた。  殴って終わりの、子どもの喧嘩じゃない。この男は、人を傷つけることを恐れてもいなければ、むやみに喜んでもいない。それがあたりまえの世界に生きているのだ。 「あいつと違って、優しい真似もままごとも苦手でね」  あいつ? ままごと? なにを言っているのか、まったく理解が追い付かない。いや、理解したくなかったのかもしれない。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

507人が本棚に入れています
本棚に追加