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「はじめまして? 藤守浅海くん」
名前を知られている事実に、浅海はぞっとした。
「なん、で……」
行きずりに狙われたわけではないことはわかった。けれど、では、なぜ。口をついた疑問に、男が笑みを深くする。
おそらく、八瀬と変わらないくらいの年だ。そうして、どこか八瀬と似た雰囲気の身なり。
――やく、ざ?
でも、だとしても、どうして。次から次へと疑問ばかりがあふれていく。
「わかんねぇって顔だな」
「なん……、あんたっ、――ッ!」
一歩、二歩と。ゆっくりと近づいてきたと思った次の瞬間、頬に衝撃が走った。一拍遅れて、殴られたのだと気づく。
その浅海を見下ろし、男は楽しげに目を細めた。
「とりあえず、口の利き方と態度には気を付けろよ? 浅海、くん」
口の中に血の味が広がると同時に、怖いという実感がひしひしと迫り始めていた。
殴って終わりの、子どもの喧嘩じゃない。この男は、人を傷つけることを恐れてもいなければ、むやみに喜んでもいない。それがあたりまえの世界に生きているのだ。
「あいつと違って、優しい真似もままごとも苦手でね」
あいつ? ままごと? なにを言っているのか、まったく理解が追い付かない。いや、理解したくなかったのかもしれない。
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