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「八瀬に可愛がられてんだろ?」 「ちがっ……」 「違うことはねぇだろ。俺はこう見えても、それなりに昔からあいつを知ってるが、誰かを家にいれたなんて話、一度も聞いたことはない」  うっそりと男が唇を歪める。獲物をいたぶる前触れのように。違う。それは特別なことじゃない。少なくとも、あの人にとって、特別なことではなかったはずだ。  迷惑をかけたくない一心で、浅海は訴えようとした。 「違う。そんなんじゃない。ただ、俺は……ッ」 「俺は、なんだって?」  無造作に男の手が動き、また脳が揺れる。右眼の下。こんな状況でも妙に思考は冷静で、目立つ痣になるという杞憂が湧いた。心配をさせてしまう、侑平に、昂輝に。  あの人は、心配をしてくれるだろうか。面倒をかけられたと煩わしく思うだろうか。 「おまえがバイトのつもりだろうが、佐合の坊ちゃんのお友達だろうが、どうでもいいんだよ。今この瞬間、あいつの腕の範囲にいるってことが、重要で」  殴った箇所を弄るように触れた手が、今度は首筋を辿る。絞められるかもしれないと身構えた身体を哂い、男はネクタイを引き抜いた。そして、笑う。どこまでも愉しそうに。
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