9/18
前へ
/106ページ
次へ
 その沈黙をどう捉えたのか、昂輝が再び口を開く。 「それとも、あいつに連絡入れたほうがいい?」  昂輝の言うあいつが誰かは、すぐにわかった。あいつだとか、あんただとか、そういう呼び方しかしないくせに、昂輝が信頼していて、自分も信頼している相手。  でも、だからこそ、言うつもりはなかった。 「大丈夫。侑平には言わない」  きっぱりと首を横に振った浅海に、昂輝は困惑した表情を見せた。けれど、すぐに、じゃあ、と気を取り直した調子で言う。 「病院は俺と行って。それも駄目だったら、さすがに放っておけないですよ。連絡する」 「昂輝、それは……」 「お願い」  まっすぐに言い切られ、浅海は溜息を呑んだ。  ――昂輝に面倒かけるつもりはなかったんだけどな。  だが、これ以上断ると、意地を張っていると余計に勘繰られてしまいそうだ。  べつに、たいしたことじゃないのにな。本心で思っていたものの、わかった、と浅海はほほえんだ。 「じゃあ、お願いしようかな。……ごめんな、迷惑かけて」 「謝らないでください」  腹が立つ、という小さな声に、ごめん、と呟いてから、謝ってしまっていることに気がついた。  一拍置いて、ありがとうと言い直す。舌打ちを呑み込んだような顔をして、けれど、昂輝はそれ以上はなにも言わなかった。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

509人が本棚に入れています
本棚に追加