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その沈黙をどう捉えたのか、昂輝が再び口を開く。
「それとも、あいつに連絡入れたほうがいい?」
昂輝の言うあいつが誰かは、すぐにわかった。あいつだとか、あんただとか、そういう呼び方しかしないくせに、昂輝が信頼していて、自分も信頼している相手。
でも、だからこそ、言うつもりはなかった。
「大丈夫。侑平には言わない」
きっぱりと首を横に振った浅海に、昂輝は困惑した表情を見せた。けれど、すぐに、じゃあ、と気を取り直した調子で言う。
「病院は俺と行って。それも駄目だったら、さすがに放っておけないですよ。連絡する」
「昂輝、それは……」
「お願い」
まっすぐに言い切られ、浅海は溜息を呑んだ。
――昂輝に面倒かけるつもりはなかったんだけどな。
だが、これ以上断ると、意地を張っていると余計に勘繰られてしまいそうだ。
べつに、たいしたことじゃないのにな。本心で思っていたものの、わかった、と浅海はほほえんだ。
「じゃあ、お願いしようかな。……ごめんな、迷惑かけて」
「謝らないでください」
腹が立つ、という小さな声に、ごめん、と呟いてから、謝ってしまっていることに気がついた。
一拍置いて、ありがとうと言い直す。舌打ちを呑み込んだような顔をして、けれど、昂輝はそれ以上はなにも言わなかった。
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