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よかったですね、とどこか憮然とした顔で昂輝が言う。
「全治二ヶ月ですって。その固定も最低二週間は外れないらしいですから、そのあいだくらい大人しくしててくださいね」
――怒ってるんだろうなぁ、これ。
まぁ、心配をされるよりは、ずっとマシであるのだけれど。三角巾で固定された自分の腕を一瞥し、浅海は曖昧な笑みを返した。
昂輝の知り合いという医者に診てもらってからというもの、ずっとこの調子なのだ。おかげで、家に帰りそびれてしまった。
……いや、積極的に帰りたくなかったってだけだな。
自分の思考に内心で訂正を入れる。これも逃避の一種になるのだろうな。そんなふうに呆れながら、ひさしぶりに訪れた昂輝の部屋をぐるりと見渡す。
よく訪れていた当時と変わらない、物の少ない無機質な部屋。足が遠のいたのはアルバイトが増えたからで、増えたきっかけはこの家で出会った人だった。
「浅海さん?」
「あ……」
自分はいったいどんな表情をしていたのだろうか。椅子から立ち上がった昂輝がベッドの縁に腰かけていた浅海の顔を覗き込む。浅海は慌てて笑顔を取り繕おうとした。
「ごめん。なんでも……」
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