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だが、おそらく来ているのだ。そうでなければ、わざわざ昂輝を呼びに来ることはないだろう。
それで、たぶん、めったとないことだ。この家を八瀬が訪れることは珍しくないとしても、昂輝を名指しで会いに来ることは、きっと。
そう考えたところで、どっと心臓が鳴った。
――もしかして、俺のこと知って……?
過った可能性に、目の前が暗くなる。迷惑をかけたかもしれないと思うと、たまらなく恐ろしかったのだ。
もしそうだとしたら、どうしたらいいのだろう。あの人のせいでは絶対にない。でも、あの人は大人だから、だから――。
「すみません、浅海さん……って、どうしたんですか?」
扉を開けた昂輝が、こちらを見とめた途端、ぎょっと焦った顔になった。その顔のまま、足早に近づいてくる。
「顔、まっしろですよ」
「え……」
「え、じゃなくて。自覚ないかもしれないですけど、起きてるのきついんですよ、きっと。寝ててください。家でも休めるなら、あとで送りますけど……」
気遣う台詞を遮り、浅海は腕を掴んだ。
「昂輝」
「会わせません」
なにを言おうとしていたのかわかっていたように、きっぱりと昂輝が先制する。やっぱり、来ているのか。悟った事実に、ぐっと腕を掴む指先に力が入る。
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