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だって、今までもそうやって生きてきたつもりだったから。
我を通すべきではないし、そもそもで言えば、人の家を勝手に出歩くべきでもない。すべて承知の上で、我慢できずに部屋を出た。足音を忍ばせるようにして廊下を進み、階段に足をかける。
だが、一階に下りたところで、浅海は立ち止まった。
――今の声、昂輝だよな……?
内容まではわからなかったものの、怒鳴っているようなそれ。
玄関のほうから響いている気がしたけれど、昂輝の家は広く、階段から玄関まではそれなりの距離がある。それでも聞こえたということは、それだけの声を出しているということだ。
止まっていた足を動かし、玄関に急ぐ。そのあいだに聞こえてくる声もすべて昂輝のものばかりで、なんで、と思う。
なんで、そんな一方的に責めるみたいな――。
「あんた、ぜんぶ知ってたんじゃないんですか」
強い怒りのにじんだ糾弾に、わずかに息を呑む。
背中しか見えなくても、昂輝の感情が荒ぶっていることは嫌でもわかった。けれど、上がり框を挟んで相対する八瀬に答える気配はない。
「いつかこうなるって、あんたがわからなかったはずないですよね」
そうですよね、と詰め寄った昂輝の語気がさらに強くなる。なにも言わない八瀬に苛立ったように、彼の襟首に手を伸ばす。それでも八瀬はなにも言わなかった。
いや、違う。言えないんだ。あの人は悪くないのに。気づいた瞬間、浅海は飛び出していた。
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