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Ⅴ
暫く待たされ、面会した行政官は呆気ないほど儀礼的な事情聴取の後、こう言った。
「奇跡的ですな。百年もの間宇宙を漂流しながら蘇生するとは、最高記録らしいですよ。エネルギーが尽き掛けていたそうだから、まさに奇跡ですよ」
僕はずっと気になっていた質問をした。
「そうですか、それで彼女は?」
僕の問いに、行政官は訝しげな目で問い返した。
「彼女とは誰のことです?」
「クローンの女性ですよ。今お話ししたでしょう」
行政官は一度端末に目を落として、こちらに視線を戻して言った。
「救助者は貴方一人です。貴方が証言した女性の痕跡も六人の死体も発見されなかった。乗客名簿にも記載はない。残っていたのは電子回路を破壊されたアンドロイドだけ。貴方の証言を裏付ける証拠はなにひとつない。船はアンドロイドの誤作動による事故で漂流したことを示しています」
「しかし、僕の記憶には残っています!」
「いくら一級宇宙飛行士とは言え、百年もの間眠っていたのですから、記憶が混乱しても不思議ではありません。なにより状況証拠が如実に物語っています。宇宙飛行士である貴方なら、客観的事実を真実と認める筈だ」
言葉もない僕に、彼女の言葉が蘇ってくる。
『彼女天才なの。先の先までお見通しなのよ』
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