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「検査が終わりましたので、行政官の指示を仰いでください。シャトルで地球に降りるのはその後になります。このような事例は前例がありませんので、事情を確認したいそうです」 「このような事例は? 僕が何かやらかしたって言うんですか?」 「わたしは指示されたことを伝えただけです」  見た目だけは一流の美人看護師は、相変わらず無愛想で取りつく島もない。美人は冷たいと言うから仕方ないのかもしれないけれど――でも、美人は僕も嫌いではなかった筈だ。  少なくとも彼女は素晴らしい女性だった。――しかし、彼女って誰だ? まだ頭の中を覆う霧は晴れそうにない。随分と長い間コールドスリープ処理されていたのだろう。僕の記憶は、氷の塊のように固く閉ざされていた。  状況からして、どうやら僕はヘマをやらかしたらしい。行政官に対する返事次第では、救助されたことを喜ぶどころか、刑務所行きかもしれない。  けど時間はまだある、行政官の取調べまでに記憶を整理しておかねばならない。宇宙飛行士としての義務感も僕にそう命じている。
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