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Ⅲ
今回、仕事の依頼者は匿名の女だった。違法な商売で客が正体を隠すのはいつものことだ。例え姿を現したとしても、本人である確証はない。それもこの商売が僕に向いている理由の一つだ。客としても、僕のような若僧に大事な荷を預けるのは不安だろう。けれど逮捕されるのが僕一人だけならば、何年刑期を食らったところで、どうということはない。そう、お互いさまなのさ。
僕はいつものクルーザー級宇宙船をレンタルして、地球から約三百十光年の距離に位置する、りゅうこつ座の恒星カノープスに近い、二十二世紀に発見された地球型惑星β-1へ向け、地球ポートを出発した。
三百光年といっても、亜空間航行を使えばほんの数週間で往復できる距離だ。その間僕はコールドスリープ装置のポッドに寝ているだけでいい。
β-1は宇宙開発初期に開発が始まった星で、地球から距離はあるが、第二の地球と呼ばれるほど快適で活気ある星だ。地球からの観光や移住者の送迎に、僕は何度も往復していた。
行きは、地球圏ポートで募集するだけで、一時間もあれば乗客と荷物で船は満杯になる。帰りはβ-1で地球行きの荷物や乗客を募集すればいい。地球へ向かう研究者や資材輸送で商売にはこと欠かない。β-1は観光地であると共に、地球では生産できない研究素材の供給地でもある。これが僕たち民間運送業者にとって、美味しい利ざやになっている。
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