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地球ポートを出発した船は目的地を目指す。船の航行や乗客へのサービスは、不細工な船専用アンドロイドが受け持っている。一級宇宙飛行士といっても、手動操縦する必要などない。全て『ポンコツ』と僕が呼ぶアンドロイドがやってくれる。僕のすることといえば目的地までの指示と、依頼人から受け取る帰還プログラムをアンドロイドのAIにロードするだけの簡単なお仕事だ。これで一般人には一生働いても買えない価格の宇宙船が、十年も働けば手に入るのである。
今回の仕事は密輸なので、帰りの便には乗客を乗せない。代わりに保存ポット七基と、帰還プログラムデータを受け取った。
早速プログラムをアンドロイドに読み込ませる。帰りは地球ポートへは帰らない。積荷室のヤバイ代物を依頼者に引き渡すまでが僕の仕事だ。それだけで、僕はエリートたちの年収の何倍もの利益を得ることができる。
この仕事は緊張するが、弛緩している時間も長い。乗客を乗せていないときは尚更だ。ポンコツとチェスをして時間を潰したって仕方がない。接待モードでもなければ勝てる筈はないのだから。
「くそ、また負けた! 少しは手加減しろよ、このポンコツ野郎!」
『接待モードをお勧めしますよ、船長』
「言ってろ!」
僕はイライラして席を立つと、チェス盤をひっくり返しポンコツに「拾っとけ」と命令した。
『何処へ行かれるのです? 船長』
「気晴らしに貨物室を散歩してくる! 帰るまでに片付けとけよ!」
どんなに精巧なアンドロイドでも、細かい作業にはまだ時間が掛かるのだ。
ポンコツが一瞬、僕の顔を見詰めた気がしたが、構うことなく貨物室へと向かい、保存ポットの前に立った。
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