途絶

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 男は日の出とともに目を覚ます。男は昨日と同じことを繰り返す。 男は日の出とともに目を覚ます。男は雪が降ったことを知る。男は雪かきをする。そして昨日と同じことを繰り返す。 男は日の出とともに目を覚ます。そして同じことを繰り返す。 男は日の出とともに目を覚ます。そして繰り返す。  男は日の出とともに目を覚ます。男はいつもと違うものを持つ。男は外に出る。男は森の奥に入っていく。男は桜の木の下へ行く。男は地面に穴を掘る。なるたけ木の根を避けて穴を掘る。いつも通りに日が暮れる。男はあきらめて寝床へ行く。男は安らかに眠る。  男は日の出とともに目を覚ます。男は昨日と同じものを持つ。男は桜の木の下へ行く。そこには掘りかけの穴がある。男は深く穴を掘る。  男は深い穴を掘った。男は桜の木に登る。男は枝に布を厚く巻く。男はその上から縄を結ぶ。男は縄を下に垂らして地面に降りる。男は垂れた縄の先をわっかにする。縄はまっすぐ穴の底を示す。男は穴のふちに座る。男は桜の花越しに青空を見る。  男は生きる意味を考えた。男は生きる理由を考えた。男には生きる意味が分からなかった。男には生きる理由がなかった。男は死にたくないから生きていた。死の苦しみが恐ろしかった。だが今は夜が恐ろしい。静かになっていく夢が恐ろしい。  男は穴のふちに立って縄を引き寄せる。男はわっかに首をくぐらせる。男の呼吸が荒くなる。男は血走った眼で穴の底を見つめる。穴には木の根っこがはびこっている。桜は枯れてしまうだろうかと男は考える。できるだけ傷つけないようにしたが、やはりほとんどは断ち切ってしまったし、乾燥が良くないかもしれないと思う。自分の体が腐り落ちれば、残したいくつかの根は切れてしまうだろうかと心配する。男は頭を抜いて穴のふちに座る。血管が激しく脈打ち、男はこめかみとあごの下に違和感を覚える。男はため息をつく。  
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