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闇の底よりの使者
(それは少々困るな……)
「ん? アディ、なんか言ったか?」
「ううん、なにも」
気のせいか。右隣にいるアディの方から聴こえた気がしたが、その向こうは何もない部屋の角だし、左隣いるユーリの声じゃない。
テーブルを挟んで対面にいるエルザ女王も両隣にいるゾフィ隊長でもアンナ王女でもない。
オレがふたたびエルザ女王と話をしようとした時だった。
「そこっ!!」
アディが突然立ち上がり、座っていた椅子を後ろ角に向かって投げつける。
椅子は壁に当たったが、それを避けるように突然空間から黒い塊が転がり出てきた。
「何奴!!」
ゾフィの言葉とともに、オレとアディとユーリは立ち上がり身構える。
エルザ女王はそのままの姿勢で、その前にアンナ王女が立ちはだかり、その前にゾフィ隊長が立ちはだかろうとした。だが少し遠かった。
そのわずかな隙をついて、黒い塊は崩れた体勢のまま縄状のモノを投げつけ、アンナ王女を縛り引き寄せて羽交い締めにした。
「動くな、動くとコイツの命はないぞ」
「あうっ!!」
「アンナ王女!!」
縄状のモノはムチだった。全身を巻き付けられ喉もとを握りの部分で締め上げる、フード付黒マントからのぞいたその手は青黒かった。
「……貴様、カイマか」
オレの問いに答えずに、油断なくオレ達の後ろにある扉に向かおうとしていた。
「そこを退け」
「退く必要はありませんよ、世界樹様」
身動ぎせず椅子に座ったまま、エルザ女王はオレに言う。
「何者か知らぬが、このような無礼な行為を見過ごすわけにはいきません。そのような失態をおかすような者の命なぞ質として役に立つわけありませぬ。退く必要なぞありませんよ」
「あんたねぇ……」
アディが余計な事を言う前にオレは手で口をふさいで取り押さえた。たぶんエルザ女王に考えがあるのだろう。
オレは押さえつけるふりして、アディと頭をくっつける。
(接続したか)
(うん、なんなのあのオンナ、自分の娘を見捨てるなんて)
(たぶんもう駆け引きが始まっているんだ。オレたちが絡むとややこしくなるから、しばらく静観するぞ)
(……うん、わかった、それじゃしばらくこのままだね)
語尾が上がっているのをスルーして、そのまま動かずにいた。
「そこを退けと言っているんだ、コイツがどうなってもいいのか」
「……このまま帰ってもいいのか?」
アディを抑えながら、おそらくカイマであろう黒マントに言うと、動きが留まった。
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