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なので本当なら、出来る限り屋敷に引き籠もっていたかった。
でも弟子であるカリーナ達の晴れ舞台を見ないわけにもいかず、今日だけはこうして人前に出てきたのである。
沢山の好奇の視線を我慢しながら、前を向いて彼女らの出番を待つ。
ちなみに、貴賓席には力のある魔法使い達も多く座っているのだが、意外と派手な装いをしている者は少なく、地味めの服を着ている者が多かった。
アデルの正体がバレて以降、どうしてか王都の魔法使いの間で、普段は地味な服装でいることがブームになっているのだそうだ。
おかげで、服装に関しては悪目立ちせずに済んでいる。
次々と大会で入賞した生徒が表彰されていくの見ていると、やがて魔道具の品評会で特別賞を獲得したヘレナが、壇上に上がった。
途端、講堂の空気が少し熱を帯びる。
ヘレナは他の生徒よりも、明らかに強い注目を浴びていた。
大勢の人の視線に晒される中、彼女は気負った様子もなく、自然体のままつつがなく賞牌を受け取っていた。
俺なら緊張で体を固くしていたと思うので、感心してしまう。
カリーナが壇上に姿を現したのは、表彰式の最後だった。
彼女はヘレナと違い、見るからに表情を強張らせてガチガチになっていた。
右手と右足が一緒に出ているし、今にも躓いてしまわないか見ていてハラハラさせられる。
うん、それでこそ俺の弟子だ。
隣にはエミリアがおり、緊張で動きが鈍い彼女をさりげなく助けていた。
今までは一人ずつ壇上に登っていたのが、最後だけは二人同時にウリエルの前に立つ。
あの時に中止になった決勝戦は、諸々の事情によってその後も行われず、カリーナとエミリアのダブル優勝ということになったのだ。
またそれとは別に、魔族に果敢に立ち向かったことを評価して、この場で勲章が送られることになっていた。
カリーナ達は手も足も出ずに惨敗したというのに、天使から褒美を授与されるというのは変に思う人もいるかもしれない。
だが少なくとも、試合場にて実際に魔族を目にした人間の中で、疑問を呈する者は一人もいなかった。
人間の身でアレに立ち向かうというのが、どういうことなのかを思い知ったからだ。
あの時の行動が、魔法使い達の間でカリーナの評価をさらに跳ね上げていた。
彼女達を、勇気ある者……新たな勇者だと囁く者も中にはいるらしい。
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