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一口で顔を赤くしたヘレナが、パタパタと手で自分を煽る。
彼女が戸惑いながらもチビチビと酒を飲んでいくのを見届けて、ウリエルは絡む相手をカリーナに移した。
「ほら、カリーナさんも飲んで~」
「でも、わたくしは――」
お兄様に、絶対に飲むなと言われている。
カリーナがそう言う前に、ウリエルは強引に酒の注がれた杯を彼女に押しつけた。
「今日ぐらいは、いいじゃない~」
「え、ええ。では、一口だけ……」
断れそうにない雰囲気にカリーナは、つい勧められるがまま、八塩折仙酒を口にしてしまう。
お酒とは思えないほど甘い味わいに目を丸くしてから、口に含んだものをゴクリと飲み下し……途端、胸のあたりがカッと熱くなった。
世界がぐらぐらと揺れ、うまく考えが纏まらなくなる。
「お、おい、大丈夫か?」
アデルの心配そうな声も、今のカリーナには届いていなかった。
とにかく体が熱く感じられ、少しでも涼もうと自らの服に手を掛ける。
「ふあぁ、体が熱いですわぁ~」
「わわわわわっ、カリーナ、服を脱いじゃダメ!」
ヘレナが、慌てた声を上げてカリーナを止める。
その間に、ウリエルはエミリアにもお酒を飲ませていた。
「さあさあ、エミリアさんもどんどん飲んで~」
「お婆ちゃんが、川の向こうで手を振っている……」
「うああああ、エミリアはそれ以上飲んじゃダメ!」
一口で顔を真っ青にしたエミリアに、ヘレナが悲鳴に近い声を上げながら、彼女の手からお酒を取り上げる。
ヘレナの手から解放されたカリーナは、席を立ってふらふらとアデルに歩み寄り、倒れ込むようにしがみついた。
「師匠ぉ~」
「これまた、見事に出来上がってるな……」
「わたくし、怖かったけど頑張りましたわ~。だからもっと――」
言いながらアデルの手を取り、それを自分の頭の上に乗せる。
するとお酒のものとは違う、暖かいものに胸が満たされて、カリーナは幸せな気分でゆっくりと瞼を閉じた。
「あら~、カリーナさんたら、意外と大胆ねぇ」
その声を聞いたのを最後に、眠りに落ちてしまう。
次の日の朝。
前の時とは違って朧気にだが残っていた記憶に、カリーナは盛大に悶える嵌めになり、二度とお酒は飲まないことを誓ったのだった。
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