第20話 世間知らず

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 一口で顔を赤くしたヘレナが、パタパタと手で自分を煽る。  彼女が戸惑いながらもチビチビと酒を飲んでいくのを見届けて、ウリエルは絡む相手をカリーナに移した。 「ほら、カリーナさんも飲んで~」 「でも、わたくしは――」  お兄様に、絶対に飲むなと言われている。  カリーナがそう言う前に、ウリエルは強引に酒の注がれた杯を彼女に押しつけた。 「今日ぐらいは、いいじゃない~」 「え、ええ。では、一口だけ……」  断れそうにない雰囲気にカリーナは、つい勧められるがまま、八塩折仙酒を口にしてしまう。  お酒とは思えないほど甘い味わいに目を丸くしてから、口に含んだものをゴクリと飲み下し……途端、胸のあたりがカッと熱くなった。  世界がぐらぐらと揺れ、うまく考えが纏まらなくなる。 「お、おい、大丈夫か?」  アデルの心配そうな声も、今のカリーナには届いていなかった。  とにかく体が熱く感じられ、少しでも涼もうと自らの服に手を掛ける。 「ふあぁ、体が熱いですわぁ~」 「わわわわわっ、カリーナ、服を脱いじゃダメ!」  ヘレナが、慌てた声を上げてカリーナを止める。  その間に、ウリエルはエミリアにもお酒を飲ませていた。 「さあさあ、エミリアさんもどんどん飲んで~」 「お婆ちゃんが、川の向こうで手を振っている……」 「うああああ、エミリアはそれ以上飲んじゃダメ!」  一口で顔を真っ青にしたエミリアに、ヘレナが悲鳴に近い声を上げながら、彼女の手からお酒を取り上げる。  ヘレナの手から解放されたカリーナは、席を立ってふらふらとアデルに歩み寄り、倒れ込むようにしがみついた。 「師匠ぉ~」 「これまた、見事に出来上がってるな……」 「わたくし、怖かったけど頑張りましたわ~。だからもっと――」  言いながらアデルの手を取り、それを自分の頭の上に乗せる。  するとお酒のものとは違う、暖かいものに胸が満たされて、カリーナは幸せな気分でゆっくりと瞼を閉じた。 「あら~、カリーナさんたら、意外と大胆ねぇ」  その声を聞いたのを最後に、眠りに落ちてしまう。  次の日の朝。  前の時とは違って朧気にだが残っていた記憶に、カリーナは盛大に悶える嵌めになり、二度とお酒は飲まないことを誓ったのだった。
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