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第21話 表彰式にて
幾つもの校舎が建ち並ぶ、トウェーデ魔法学院の敷地内。
その中央には、どこか教会を思わせる巨大な石造りの講堂があった。
天井が高く、壁一面に施されたステンドグラスを通して差し込む光が、中を煌びやかに照らしている。
幾つも並ぶ石柱が、華やかさの中に重厚な雰囲気を加えており、中にいる人々の背筋を自然と伸ばす力があった。
壮麗でいて神聖さを失わず、程よく空気が張り詰めた場所。
トウェーデ魔法大会の表彰式は、そんな厳かな場所で執り行われた。
ウリエルの手配によって用意された貴賓席に座りながら、俺は講堂の最前部にある壇上で順番に表彰されていく学院の生徒達を眺める。
なるべく周りを見ないよう、ひたすら視線を固定する。
どうしてか、この式典のメインであるはずの生徒よりも注目を集めている気がするが、努めて無視する。
話によると、今日の表彰式を見に講堂に集まった人の数は、例年よりも大幅に増えたらしい。
いつもと違って、天使であるウリエルが直々に生徒を表彰しているというのもある。
でも、観衆が増えたことの一番大きな原因は俺だった。
いや、俺というよりは「アデル」と言うべきか。
魔法大会の決勝戦が、魔族の襲撃により中止になった日。
大勢の人々が見ている前で戦ったことが切っ掛けで、俺の正体がバレたのだ。
不幸中の幸いと言うべきか、学院の生徒が弟子入り先を選べる期間は過ぎていたので、弟子入り志願者が屋敷に殺到するという事態にはならなかった。
というか、実はあの屋敷には俺も認知していなかった結界が張られてあるらしく、俺と親しい人間しか森を通り抜けられないとのことだ。
だから、俺の正体がバレた後も屋敷は平穏そのものだった。
逆に、王都はしばらく大騒ぎになっていたらしいが……。
ウリエルによると、ランドリア王国の王族や貴族はもちろん、豪商やあらゆる分野の著名人などが、「アデル」との面会を求めているらしい。
この世界では比類無き英雄扱いであるアデル・ラングフォードが近くにいるとなれば、周囲の反応がそうなってしまうのは理解できる。
でも正直、勘弁して欲しかった。
皆が敬愛して止まない「アデル」の中身は、今はしがない元学生の男なのだ。
誰かと会って話すたびにボロが出て、幻滅させてしまいそうである。
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