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「それは……ギルド長が、アデル様はお金に困っていないので、金銭での報酬は喜ばないと仰いまして……」
「そ、そうか」
ルアンナが気まずそうに、俺を窺っている。
視線がちょっと生暖かい感じがするのは気のせいだろうか?
依頼を受ける報酬として、俺がウリエルに要求したのだと思われているのかもしれない。
誤解だ、これはウリエルが勝手に報酬にしているだけで、俺はちっとも嬉しくな……いや、正直ちょっと嬉しいけども。
まあ確かにお金には困ってないので、ウリエルの言葉にも一理あった。
ちなみに妖狐の里の火狐酒とは、そのまま妖狐が造ってるお酒のことだ。
この依頼を達成したら、どこの酒好きの手に渡るのか丸分かりである。
パラパラと羊皮紙を捲って他の依頼を見ていくが、見事に酒絡みの依頼しかない。
ウリエルの私利私欲感が、半端なかった。
大丈夫なのか、魔法使いギルド。
それに、報酬も「手を繋ぐ」とか「耳かき」とか、俺は子供かと言いたくなるようなものばかりだ。
危険な依頼を受けさせるなら、もっとサービスしてくれても――
依頼内容:ドラゴンの秘境にある、八塩折仙酒の入手
報酬:ぱふぱふ
なんか凄いのがあった。
危険度も他より跳ね上がっているが、報酬もやばい。
いや、だがゲームでのこれは、期待させておいて金管楽器というオチだった。
ゲームなら笑って済ましたが、実際に目の前でラッパを吹き鳴らされたら、やるせなさすぎる。
どうしようか?
この世界はゲームとは違う。
そこに賭けてみるべきか?
いやいやいや。
報酬に目が眩んで、本来の目的を忘れるところだった。
俺の目的は、料理の材料だったはずだ。
そして秘境にいるドラゴンからは、料理スキルに使える材料が手に入る。
これは今の俺に、あつらえむきの依頼だった。
決して報酬のために受けるわけではない。
意を決してこの依頼を受けるとルアンナに伝えると、ちょっと冷たい目をされた。
違うんだからね!
「それでは、ご武運を」
「あ、ああ……」
俺はルアンナのぎこちない営業スマイルから逃げるようにして、魔法使いギルドを後にした。
その足で王都の外にまで出て、風属性の魔法である【天翔】を発動させる。
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