第15話 ウリエルの依頼

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 実はこの【天翔】。ゲームでは街と街を一瞬で行き来できるワープのような演出をしていた魔法だったはずなのに、こちらでは単に空を凄く速く走れる魔法になっていた。  おそらくゲームでは省略されていただけで、アデルは毎回街と街を走っていたのだと思われる。  遠く離れた場所へ移動した時は、途中で休憩や野宿もしたはずだ。  それら全てが、ゲームでは暗転で終わっていただけの話。  だから【天翔】を使っても遠出するには時間が掛かる。  つまり、俺が何が言いたいのかと言うと……もしかしたら、カリーナの試合に間に合わないかもしれなかった。  すっかり失念していた。  やはり、報酬に目が眩んでいたようだ。  俺のせいではなく、ウリエルのせいだ。あんな報酬を用意するから……。  依頼にあったドラゴンの秘境は、険しい山脈の只中にあるものの、王都からそれほど遠くはない。  新幹線もびっくりな超人アデルの【天翔】なら、数時間ぐらいで着くだろう。  今回は誰も抱えていないので、気にすることなく全力で移動できる。  カリーナの試合は夕方からなので、ギリギリ間に合うはずだ……先にある三位決定戦などがすぐに終わってしまわない限りは。  速攻でドラゴンを倒して、速攻で酒を汲んで帰る。  他には脇目もふらない。  そのつもりで走り続け、やがて目的の山脈が見えてきた。  奥まで行くと、小さな湖が見えてきて……とそこで、湖の近くにいたドラゴン達が俺に気がついて、威嚇の声を上げ始めた。  全身を覆う黒い鱗に、コウモリのような翼。手足の鋭利な爪に口の牙と、どの個体もゲームならお馴染みの姿をしている。  体高だけでも人の五倍はありそうな彼らが一斉に咆哮を上げる様は、なかなか壮観だった。  おそらくは、あの湖っぽいのが依頼にあった八塩折仙酒だろう。  そこそこランクの高いドラゴンは、よくどこかで自分達が飲むための酒を造っている。  だがドラゴンの造る酒は美味いと有名で、人間だけでなくあらゆる種族から狙われていた。  ドワーフなどは、目の色を変えて襲ってくる。  だからこそ、ドラゴンたちはこそこそ隠れて酒を造っているのだ。  この依頼、よく考えなくても単なる強盗である。  弱肉強食は自然の摂理とはいえ、俺の中身はしがない日本人。
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