1146人が本棚に入れています
本棚に追加
少し自嘲を含んだカリーナの声に、エミリアは首を横に振った。
「違う。今日は私も、本気でやる」
彼女はそう言って、ほんの少しだけ口端を上げて笑みを浮かべる。
エミリアは今、カリーナを【魔眼】で見た上で、対等以上の相手だと認めていた。
それは彼女が全く油断していないということであり、今から戦う相手に慢心がないのは厄介なことのはずなのだが……どうしてかカリーナは、嬉しく思ってしまう。
「どちらが勝っても、恨みっこなし」
「ええ、受けて立ちますわ」
カリーナの顔も、エミリアに対抗して不敵な笑みを形作る。
今回のそれは単なる強がりではなく、体に滾る戦意から自然と表に出てきたものだ。
勝ちたいと思った。
エミリアに……雲の上にいたはずの相手に、勝ってみたいと思った。
カリーナは、そんな祈りにも似た渇望を瞳に滾らせ、エミリアを見据える。
エミリアもまた、カリーナを同じような目で見つめていた。
両者が視線をぶつけ合わせていると、審判役であるウリエルの間延びした声が、試合場に流れる。
『は~い、それでは決勝戦を、はじめま~す。エミリアさんも、カリーナさんも、準備はいいかしら~?』
ウリエルの確認に二人が頷く。
すると、彼女は高らかに試合開始を宣言した。
『は~い、それじゃ始めちゃってくださ~い』
全く同時に、二人は周囲から精霊を呼び寄せはじめた。
色とりどりの光が、二人の眼前で融合し、それぞれの形を構築していく。
その速度は、ほんの僅かな差だがカリーナの方が速かった。
彼女の感応値は、既にエミリアを上回っている。
カリーナは先手を打つことを優先し、緑色の光玉を四つ使って風属性魔法【エアカッター】を発動させた。
彼女の周囲に無数の風の刃が生み出され、相手に向かって放たれる。
キュルキュルと風音を立てて回転する刃の一つ一つが、細い木なら簡単に切り倒せてしまうほどの威力を発揮し、その全てがエミリアに殺到した。
相手が格下であれば、魔力による肉体強化を貫通して命を奪いかねない魔法。
だがカリーナには、エミリアなら事もなく防ぐだろうという奇妙な信頼感があった。
そして、期待通りと言うべきか。
遅れて精霊の光を構築し終えたエミリアは、風の刃が到達する前に、青色の光玉を消費して水属性魔法【アイスシールド】を発動させた。
最初のコメントを投稿しよう!