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たまきの仕事ぶりは、内海ゆき子の件で知っている。指示通りにゆき子の口に合うカレーを作り続ける腕前を持つ人にしては意外な言葉だった。
「わたしは短大出なんだけど、その後二年ぐらいレストランでフリーターやってたんだよね。そこで経験積んで調理師になったの」
「ああ、だから料理上手なんですね」
「そ、これでも本職なわけ」
曲げた細い腕を軽く叩く仕草がやけに頼もしく見えた。
「本職だから料理が上手なのは当たり前だからね。そこのところを瀬戸さんにも見込んでもらえてるからありがたいけど」
そう言ってたまきは笑う。料理を本職と言いつつも、キッチン以外でも働く仕事についての葛藤は見えない。食い詰めたという言葉が気になったが、その話を聞く前に車は目的地に着いてしまった。
一週間たまきに同行すれば、彼女の担当も一通り経験できる。その中には内海ゆき子や岸田安男といった他の機会にサービスに入った利用者もいた。決して頻繁に訪問しているわけではない美也子のことを覚えていて、
「あら、珍しいのね」
ゆき子は思いがけない人を見たと言うように笑顔を見せ、
「少し賑やかになりますか」
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