メシスタント・ヘルパー

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 安男は以前より色彩豊かになった部屋へ、美也子の挨拶を懐かしむように聞きながら案内した。  ゆき子の家では、美也子が掃除や洗濯物干しをしている間、たまきがキッチンに立っていた。ゆき子の好みと言えばカレーである。それも、現代ではほとんど忘れ去られた、明治時代の料理人が考案したレシピによるものだ。 「これ、毎回作ってるんですか?」  自分の仕事を終わらせてキッチンに入った美也子は、彼の亡き夫の蔵書である『西洋料理通』に書かれていた通り、長ネギを一口大に切りそろえる。 「もちろん。利用者の考える味にも色々あるってわかる良い経験だったわ」  たまきはそう言いながら、塩を混ぜたカレー粉で味を付けていく。そしてバターを混ぜたカレーの匂いは、美也子が知るものとは違う。試食した時甘みの全くなかった味に驚いたが、鍋から立ち上る匂いも嗅ぎ覚えのないものだ。そこまで来ると、自分たちが本当にカレーを作っているのかどうかわからなくなってくる。 「……味見しても良いですか?」  後ろを伺いながらたまきにささやきかける。彼女はすんなり頷いて、スプーンに取ってくれた。
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