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「別に一つのところで働き続けるのが偉いとは限らないでしょ」
「終身雇用だって崩壊してますし?」
聞きかじりの雇用論を打ってみる。まだ実感を伴うほどの経験がないから、自分の言葉は驚くほど胸に響かない。
「まあ、そういうことかな」
どことなく温かみがある声で応じつつ、たまきは風呂敷包みを開いた。さっきから気になっていた中身が露わになる。きれいな三角形に整えられたアルミホイルだった。
「皆が帰ってきたら食べてちょうだい。一人一個ずつね」
「いつもすみません、作るのにも手間がかかるのに」
「良いの、好きでやってることだから」
たまきは介護記録を越前に渡すように言い置いて去っていった。それから十分ほど置いて越前、丹波、愛智の順で帰ってくる。彼らは揃いも揃って、挨拶よりも先に三角形のアルミホイルに関心を向けるのだった。
「留守番ご苦労さん。そしてそれは、信楽くんによる僕らへの労いなのかな?」
「何でわたしがそこまでするんですか。常滑さんが持ってきてくれたんですよ」
仕事そっちのけで労いの品をこしらえていたと思われるのが癪で、真実を強調する。その横で越前は、
「常滑さんもマメだな……」
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