メシスタント・ヘルパー

5/53
前へ
/53ページ
次へ
 立ったままかじりつく。その瞬間まで笑顔はなかったが、何秒間か咀嚼してからようやく彼らは表情をほころばせた。  彼らの不可解な反応が気になりつつ、それぞれの具材を訊く。ゴボウと豚肉の味噌炒め、昆布、水茄子と干しエビの煮物とかなり凝った具材も入っていたようで、梅おかかの質素さが際立った。 「美味しいですよね」  ありふれた味ながら、後に残る旨みに美也子は顔をほころばせるのだった。  2  会議室に入るのはほぼ一年ぶりのことだった。前回は思いがけないタイミングでの呼び出しだったが、今回は予告されている。何が行われるのかもわかっていた。 「まあまあ、そう固くならないで」  丹波所長と共に待ち構えていた愛智は、いつもの軟派な笑顔で迎え入れた。初めて彼を見た時と同じ表情だったが、当時とは抱く印象が違う。それも一年という時間経過を感じさせるのだった。  他の会社ではどんなものか知らないが、社会福祉法人寛恕会では一年に一回、五月に全ての職員が上司及び人事部長に呼び出されて面談を行うことになっている。人事考課面談と名付けられていて、前年度の働きについての評価、今年度の雇用契約についての確認を行う。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加