メシスタント・ヘルパー

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 一方的に話してばかりの修治が、初めて問いかけてきた。何気なく時計を見遣る。デジタル時計の残り時間は一分だった。 「そのままでいれば良いんじゃないですか」 「俺、何もできないぞ」 「それでも良いってこともありますよ。そこにいるだけで良いって人は確かにいますから。そうじゃないと、おつまみの心配までしません」  オニオンリングにはニンニクが利かせてある。それは聡子に伝えられたことだ。もしも酒を飲みたいと言い出したら、ニンニク風味のオニオンリングを作るように。それが夫の好みなのだと。 「幸せ者ですね」  妻だけではない。修治に関わる人たちが、彼のことを話す時は笑顔になる。それがどれだけ希少なことか、修治の半分も生きていない美也子にもわかる。  そして一分が経った。また来てよ、と声をかけた修治は、いつもの甘えるような上目遣いをしていた。  5  聡子は予定通り二週間で退院し、生活援助に携わったヘルパーたちもお役御免となった。生活援助を受けるための条件として、一人暮らしであるというものがある。その時点で夏目家は対象外だったが、二週間だけ一人になってしまうため、今回は特例として認められたのだ。
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