メシスタント・ヘルパー

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 最初に人事部長が雇用契約書を差し出してきた。細かい文字は読まず、一番下に書いてあった給与についての項を真っ先に確認する。ほとんど変わらないが、前年度より五千円増えていた。  特に質問も不満もなかったので、雇用契約書に署名捺印をする。ふと、特養でどれほどの同期が人事考課を受けるまで持ち堪えたのかと思ったが、もはやほとんど接点がない世界のことだ。自分で特養のフロアを覗きでもしない限り、知る機会はないだろう。 「それでは前年度について、丹波所長からお話があります」  まるで学校の朝礼みたいだと思った。壇上に上がった先生の話を黙って聞き、そつのない司会進行によって進められ、それに応じて次の話し手が現れる。丹波所長もそれに従っておもむろに口を開いた。 「まずは一年間、よく働いてくれました。いきなりの異動で戸惑いもあったでしょうに、頑張ってくれたと思います」 「そうだね。僕の負担も軽くなったし、越前くんもヘルパー送迎が減ったから事務の仕事に集中できて助かってるって言ってたよ」
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