メシスタント・ヘルパー

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 丹波所長の包み込むような声が、戸惑いを和らげてくれたような気がした。利用者の死という、避けられない状況にどんな心づもりで望めば良いか、美也子は答えを持たない。そんな他人から見たら頼りなげな姿勢も、丹波所長は温かく見守ってくれるようだった。 「たまにいるんだ、やる気があっても利用者の死を見た途端に仕事へ背を向ける人が。やる気があるほどそうなりやすい傾向はあるけどね」  じゃあわたしはやる気がないように見えますか。そんなふうに言い返したくなったものの、人事部長も同席している場の雰囲気を考えてこらえる。 「僕らの評価としては、平均以上だね。ボーナスは増えるかもしれないから期待しても良いよ」  気軽に言った愛智の横で、人事部長は苦い顔をした。軽々しい発言を咎める言葉が飛び出しそうな顔に少しだけ緊張する。 「評価と期待は表裏一体です。私たちとしては、信楽くんにはもっと活躍してもらいたい。だからこそ、一つ課題を与えようかと思います」  人事考課の面談からは少し外れるような話題に思えたが、丹波所長の脇に座る人事部長は何も言わない。美也子は所長の声に耳を傾ける。
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