メシスタント・ヘルパー

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「特養の出身だけあって、介護技術については問題ありません。しかし生活援助については、いささか不慣れなように見受けられます」  少し痛いところを突かれて、美也子は顔をわずかに歪めた。大学入学以来一人暮らしを続けてきたが、家事スキルは二年で頭打ちになってしまった。どんなに頑張っても一週間経てば机の上はごちゃごちゃになってしまうし、料理のレパートリーも十個から増えない。働くようになってからは野菜炒めと味噌汁を作り置きして、三日ほどかけてゆっくり消費する日が増えたような気がする。その具材も代わり映えしないことに危機感を覚えている今日この頃である。 「ああ、気にしなくて良いんだよ。それは評価に加えていないし、僕らが研修の機会を用意しなかったのが悪いから」 「しかし何度も言うように、活躍の場を広げてもらいたいと思います。これで家事援助も及第点以上の働きができれば、とても良い。そこで信楽くんには、研修をしてもらおうかと思います」  研修ですか、と声が出た。思えばこの一年間、研修らしきことはやってこなかった。常に実地で学ぶことを求められた日々は過ごすのに必死で、不満や疑問を差し挟む余裕さえなかったのだ。
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