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1 生い立ち
あたしが生まれたのは、下町のさらに裏側みたいなところでした。
小さい頃のことはよく覚えていませんが、母親や兄弟達と一緒にいたことは確かです。父親の顔はわかりません。でも、いつの頃からか、あたしはひとりで街の中を生きていました。
家のない仲間達は街のあちこちにいて、あたしに生きる術を教えてくれました。ここは皆が集う安全な場所、ここはあいつの縄張りだから荒らしてはいけない、このレストランはよく食べ残しが出る、これは食べてはいけないもの。
街の人達はあたし達みたいなのにはあまりいい顔をせず、時にほうきなどで追い払われることもありました。
それどころか、街では時々一斉に街中を摘発し、あたし達の仲間を次々と捕まえていました。捕まった仲間は収容所に入れられるので、みんな摘発を恐れていました。
それさえ注意すれば、あたし達はそれぞれ自由に暮らしていました。むしろ、命の危機ギリギリのところで味わうスリルを楽しんでいました。
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