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ドライブ
「まさかレンタカーを借りるなんて!言ってくれたら車出したのに・・!」
助手席に乗った店長は外を見ながら呟く。
「オレが思いつきで誘ったんです。出してもらうのも悪いし」
借りた車は店長の車と同じで、色違い。他の車は貸出中でこれしかなかったけれど、まあいいか。
ドライブをしながら、佐藤店長は近況を教えてくれた。転勤先の店ではうまくやっているらしい。
幸い同い年のマネージャーが補佐してくれているらしく、うちの店にいた頃よりも仕事がなくて暇だという。
「じゃあ、寂しくはないんですね」
うっかり口に出してしまった言葉に、店長は笑う。
「心配してくれていたの?ありがとう」
でも君たちのようにキラキラしている子たちはなかなかいなくてさあ、とまた青臭いセリフを吐く。
漫画の読み過ぎっすよ、と俺も笑う。
こちらの近況もポツポツと話す。対して変わったことはないんだけど。
「えっ、岡崎さんと山崎くんて付き合ってないの?あんなに仲良しなのに」
「よく分かんないっすよねえ・・」
岡崎の教えてくれた、ドライブスポット。美味しいうどん屋はすぐそこだ。
うどん屋って、サラリーマンかよ!とツッコミを入れたのは山崎で、俺ならドライブらしくパン屋を教えてやる!をわめいていたのを思い出す。ドライブなんて腹が減るものよ!と岡崎が一蹴していた件を店長に話す。
確かに腹が減ったなあ、と言いながら店長と笑う。きっとパンじゃ足らなかった。
深緑が眩しい森の中を、男ふたりが乗った2シーターの車が走る。男同士でとか、もうどうでもいいや。
いろんな話をしながら過ごすこの時間を店長は気に入ってくれるだろうか。
そんなことが頭をよぎって消えて行く。
楽しいと思ってくれたら、いいな。笑ってくれたら、いいな。
「そういえば店長、前聞けなかったんすけど・・何でドライブするのにオレだったんですか?あ、2シーターだからか」
みんなとワイワイしたかったなら、他の車で一緒に行っても・・と言った俺に店長が答える。
「何でって、相澤くんが好きだからに決まってるでしょ」
「ふーん・・・え・・?」
爆弾発言をさらりと落として、店長はいたずらを仕掛けた子供のように笑っていた。
「じゃないと2シーターの車で誘わないよ」
「え、あの・・・」
「今回は相澤君から誘ってくれたってことは、そういうことだよね!ありがとう!」
遠くで岡崎と山崎が笑っているような気がした。
【了】
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