バイト

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バイト

そう、困ったことはこの《ドライブのお誘い》なのだ。誘われるようになってこれで、3回目。 その都度なんかの理由をつけて断っている。 別に店長が嫌いとかそういうわけではなく・・むしろ色々気を使ってくれるし、気兼ねしなくて済む人なんだけど・・ 店長に悟られないよう、やんわり断ろう。 「レポートの提出期限が迫っていて、ちょっと難しいです・・」 「そうなんだ・・」 店長が一瞬、うなだれる。 ごめんなさい、レポートなんか無いです。 何故、ドライブに行かないのかって? それは店長の愛車が「2シーター」だから! 二人乗りの、車ということ。 必然的に店長が2人でドライブに行こうと誘っているわけ。 いやいや、オトコ2人っきりでドライブとか・・! しかもそんなに親しく無いのに! *** 2回断わった時に、山崎に相談したことがある。 「なあなあ、佐藤店長ってホモとかじゃねえよな?」 「何だお前、直球だな」 焼き肉を食いに行ってて、カルビを焼きながらそんな話をしていた。 「ほら、佐藤店長の車って2シーターじゃん。ドライブ誘われてさー」 「別に良いじゃん。2人でお出かけなんて良くある話じゃん。現に今2人で焼肉食いに来てるし」 「2人っきりで長時間、何話せっていうんだよー!親友とかならまだしも・・」 「いやー、もしかしたら愛車を自慢したいだけかもしれん。あるいはバイトリーダーに物申したいことがあるとかさー・・・」 焼けたカルビを頬張りながら山崎がしかしなあ、うーん、と唸る。 「・・・新しい世界開けちゃうかもよ」 ニヤニヤと、嫌な笑い顔を見せる山崎。 「お前、他人事だなーー」 *** そんな理由で、オレは店長の誘いを断り続けているのだけど・・流石に3回目ともなると感づいて諦めそうなものなんだけど・・・ 一瞬、残念そうな顔をした店長はそれでも 「じゃあ、また誘うね!」 パソコンから目を離して、笑顔でそう言う。 メゲないなあ、と感心すらしてしまう。 ってかこれまた次に誘われるまでドキドキするパターン?もういっその事、行った方がスッキリするかも?何もそういう事じゃないかもしれないし・・ 「ら、来週なら大丈夫です」 小声で言ったオレの言葉を店長は聞き逃さなくて。 「ホント?!」 まるで子供のように目を輝かしながら、じゃあどこ行く?僕が決めていい?とまくし立ててきた。 ・・早まった気がした。 大丈夫か、オレ・・・ それからの店長の浮かれようと言ったら半端なかった。休憩中にはスマホを片手に「どこが良いかなー」と呟きながら笑っていたり岡崎にオススメのドライブスポットを聞いてみたり・・・ はたから見ても、浮かれているのがわかる。 何でそんなに嬉しいんだ?  *** バイト帰りに店の横にある居酒屋で3人、飲むのが日課になっている。 居酒屋、と言っても学生達がたむろするような店で女子の姿も多い。 大学があるこの街では若者が夜になると集まってくる。 「ほんっと、相澤愛されてるわねーー」 ため息をつきながら岡崎がそんなことを言う。 隣で山崎がニヤニヤしてやがる・・ 「・・別にただのドライブだし、デートじゃねえよ!!」 ハイボールを煽りながらオレは反論するが・・ 「いやもうアレは恋する乙女でしょ。あ、エイヒレの炙りくださーい」 乾き物を注文しながら、そう答えた。 「こっちはパンケーキ!」 山崎は笑いながらオーダーする。何だパンケーキって。 「男が、男にモテたって嬉しくねえよ!」 思わず大声で出てしまい、隣の2人連れの女子がギョッとした顔を見せる。 「明後日だっけ?天気予報も晴れのよーだし、よかったな!店長は明日休みだから洗車頑張るって言ってたよー。あー、いじらしい」 「だからやめろってええ」 隣の女子がさらに盛り上がってしまったのは、いうまでもない。
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