誘い

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誘い

「そんな急に転勤って決まるものなのかしらねー」 例の居酒屋でタコわさびをつまみながら、岡崎が呟いた。佐藤店長が来なくなって1週間。 どうやら別の店舗へと急遽、転勤となったと本部から配属されたマネージャーから連絡があった。 その間、店長不在を俺が代理として勤めたわけだが・・ 「何の挨拶もなしってひどくない?店長はそんな人に見えなかったけど・・」 「何でも転勤先の店長が急に来なくなってさ、そこが繁忙店だからすぐってなったらしいぜ」 それでもやっぱり寂しいよな、と山崎。 「結局、ドライブ出来ずかあ・・」 二人が呟く。 あれから連絡も無く、俺はホッとしてるのか自分でもよく分からない。以前ならホッとしていたはずなのに。 店長は新しいところでまたスーツを着て 無難に笑って、無難に過ごしているのだろうか。 羨ましいと、あの時言っていた感情は隠して 寂しそうに笑っているのだろうか。 「相澤あ、ピザ食べねえの?最後のもらうぜ」 山崎が声をかけてきてハッとする。 「俺たちも就職したら、どーなるんだろうな」 いつの日かこの時間がキラキラしていたって思う日が来るのだろうか。店長はそれを知らずに過ごしてきたのだろうか。 「なあ、岡崎」 気がついたら聞いていた。焼酎を飲みながら、岡崎がこちらを向いた。 「何?なんか頼む?」 「んにゃ。どっか、ドライブスポット知らねえ?」 それは何かの気の迷いだったのかもしれない。でも俺は今、そうしないとすごく後悔すると感じたんだ。 *** その日の天気予報は「曇りのち快晴」 あの日より少し明確になった予報だ。 確か、佐藤店長は毎週水曜日に休みをとっていた。新しい店になって同じかどうかはわからないけど俺は賭けに出た。 火曜日の夜、店長に送信したメール。 「ドライブしませんか」 何故だろう、自分でもよくわからないけど。店長とドライブしたいと思ったのだ。 驚いたのは佐藤店長だろう。 あんだけ断わられていた相手からの誘いだ。 しかも前日の夜なんて、こっちが今度は断わられても仕方ない。 暫くして返事・・というより電話がかかってきた。 『ドライブって、相澤くんクルマ持ってないんじゃ・・』 『いいから、行きましょうよ』 少し時間があいて佐藤店長は行こうと言ってくれた。 *** 何で店長と今更ながらドライブしたいと思ったんだろう。あんなに断っておきながら。 ドライブ用に準備したクルマは2シータ。 自分でも恥ずかしいと思いながら、待ち合わせた駅に向かっていた。 天気はどんどん晴れていく。 この様子だと快晴、絶好のドライブ日和。 駅のロータリーに侵入すると見覚えのある、ラフな格好をした店長がいる。 少しそわそわしている様子が面白い。まるで子犬みたいだ。俺は少し笑って店長の前で車を止めた。
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