3人が本棚に入れています
本棚に追加
セーラー服の木村素直は中年男の首に刀を振り下ろすと、その場で昼食を戻した。
「素直ちゃんダメだよ? 囚人と言えども、刑が執行されたら、もうただの人なんだから、生首にゲロ吐いちゃ?」
スーツの若い男が、素直のゲロにまみれた、ハゲ散らかしたオッさんの生首を見下ろし言う。二十代後半くらいに見える。
「すいません。吉岡さん」
「今日のお弁当は、ハンバーグかな?」
「いえ、ロールキャベツです」
「女子高生のゲロをまじまじと見れるなんて、これはこれで乙ですね」
「やめてください。セクハラですよ?」
「それは困りますね? じゃあこれで示談でーー」
吉岡は冗談交じりに、茶封筒をポケットから出して
「今日の分」
と言った。
「ありがとうございます。でも、そういう冗談もダメですよ?」
「そうだね。ーー弟さん、これで給食費払えるね?」
「は、はい。」
「まあ、遺族には火葬して渡すから、気にしなくて良いけどね。」
「え? 何をですか?」
「ゲロの事だよ。まあ、この方の場合は、渡す遺族も居ないからな。無縁仏かーー。それにしても、凄い切れ味だね? 少し前まで、素人だったとは思えない斬首ぶりだ」
「……この人は、何をしたんですか?」
「ニュース見なよ? って、もう10年くらい前の事件か? 君はその頃、小学校低学年だもんね? この方は中学生から20年以上引きこもりをしてて、40歳の誕生日に両親を殺して、そのまま外に飛び出て通行人を7人襲った。7人目で凶器の包丁が折れたんだ。それくらい思いっきり、刺したんだね。そこで、駆けつけた警官に捕まった。死者は両親含めて、5名。他も皆んな重傷で、まだ後遺症に苦しむ人もいる。君は素晴らしい仕事をしたよ」
「……素晴らしい。」
木村素直は16歳にして、長らく途絶えていた山田浅右衛門の名を継いだ。
山田浅右衛門は、江戸時代に御様御用という刀剣の試し斬り役を務めていた山田家の当主が代々名乗った名である。
御様御用は刀の試し切りを行うだけでなく、死刑執行人も兼ねていた。
その為に、首切り浅右衛門、人斬り浅右衛門とも呼ばれた。
1911年に9代目山田浅右衛門の死去で長らく途絶えていた山田浅右衛門の名が、令和になりなぜか高校1年生の木村素直に引継がれる事になった。
同時に、斬首刑も復活した。
最初のコメントを投稿しよう!