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君のことをずっと
私はあなたのことが好きです。
その一言を言うためにどれだけの時間を使い、精神をすり減らすのだろう。
たった一言自分の想っていることをただ相手に伝えるだけなのに、
どうしてできないのだろう。
何かきっかけさえあれば、きっと言えるはず。そう思っていたのに・・・
私が昔から好きで好きでしょうがなかった彼はもうどこを探したっていない。
去年の秋、私はいつもと同じように自分の想いを
彼に伝えようとして伝えることができなかった。
幼馴染の彼とはずっとそばにいて、いつか伝えよう。
いつかと結果が怖くて後伸ばしにしていた。
その日もまた明日会えるから明日こそは伝えるんだ。
そう漠然と何の根拠もないのにこれからもそばにいてくれることを
信じて疑わなかった。
しかし運命とは時に残酷なものであることを私は突然、知ることになる。
彼の死によって。
あの日、私と別れた直後、彼は交通事故にあってしまい、
また明日会えなくなってしまった。
それはつまり、私の想いを伝える機会までもが永遠に失われてしまったこと
もしもこんな最期が待っているなんて知ってさえいれば、
私は自分の想いを彼に伝えていたのに・・・。
もしもあの時、私が勇気を出して彼を引き留めて伝えていたら、
今この時も生きていたかもしれないのに・・・
振られたってよかった。
あなたがそばにいてくれさえすればそれで良かったのに。
失ってから生まれる後悔ほど悲しいものはない。
私はこれから何を支えに生きていけばいいの?
ねぇ、誰でもいいから教えてよ。
その願いをかなえてくれる人はいなかった。
それからの私は彼を失った悲しみが大きすぎて、
何もできなくなってしまった。
部屋に引きこもり、朝から晩まで涙を流して寝ることの繰り返し。
そんな私を見て両親は心配を募らせていき、
私を外に連れ出すことに必死になった。
しかし外は彼と共に歩いていた場所ばかりで、
外に出ることは身を切られる思いだった。
そしてそんな生活をしていたからだろうか。
私の中の時計は狂ってしまい、1日2日ずっと寝ていることも
ぼ~っとしている間に
一日が終わってしまうことも多くなり、
時間の流れが速く感じられるようになった。
気が付けば、1月2月が経ち、あっという間に半年、
そして明日で彼が死んだ命日だった。
この1年、部屋から外に出たのはトイレとお風呂を除き、
指で数えるくらいだった私にとって、
部屋を出てその先の外まで行くのはなかなか至難のことだった。
そもそも部屋でずっと寝ることと座ることしかしてなかったことから、
身体能力が著しく衰えてしまい、
介助なしでは歩けなくなり、体力も全然ないため車いすを使うしかなかった。
そのため、彼の命日に彼の家やお墓を訪れることには抵抗があった。
しかし両親の必死の説得と、彼の母親が彼のパソコンで最近見つけたものを
見せてもらえるという話を聞いて、私は行く決意をした。
もう私には着替えをする力もあまりなかったため、1年ぶりの着替えを
母親に手伝ってもらいながら長時間かけ、
父親が借りてきてくれた車いすに乗って、
押してもらう形で彼の家にたどり着いた。
彼の母親は私のあまりの変貌ぶりに心底驚き、
心配もしてくれたものの何も感じなかった。
そして一周忌が始まり、私はその間ただただ彼の顔や声を
思い出しては頭の中で流す作業を繰り返していた。
気が付けば、式は終わっていて、私と両親は彼の母親に誘導される形で、
彼の部屋へと向かった。
彼の部屋に着き、部屋の扉を開いた瞬間、よく彼に会いに来ていた時のことが
一瞬にして頭に浮かび、もう1年間も経ったから匂わないはずなのに、
彼から発されていた懐かしいにおいを感じた。
まるで彼がこの部屋にずっといるかのような・・・。
つー。
気が付けば、私の頬を涙が伝っていた。
「あ、あなた・・・。」
それを見た両親と彼の母親は驚いていた。
彼の母親は私の目の前にパソコンの画面を出した。
そこには「ひみつ」というフォルダ名が打ち込まれており、
その作成年月日を見た瞬間、私は固まった。
その作成日は事故の1日前だったのだ。
私はあまり動かない手と指を必死に動かし、フォルダをクリックする。
中には一件のワードのファイルだけが入っていた。
タイトルは「想い」という。
私はそれをクリックして中身を見ることにした。
するとそこには、彼が私に向けて書いたと思われる文章が書かれていた。
「こんなことをいきなりこういう手紙っていう形で伝えるのは、
少し古典的だけどさ、ただ恥ずかしかったんだよ。
最初はお前のことを幼馴染としてしか見ていなかったのにいつぐらいからか、恋愛対象として見るようになったんだ。
それを自覚してからはだんだん好きになっていってさ。
これからもお前と一緒に生きていきたいと思った。
もしもお前も俺と同じ気持ちなら嬉しいな。
まあ、振られても俺はお前がこの世界にいてくれるだけで十分だ。
返事はいつでもいいからな。それじゃあ、改めて言うよ。
俺は君のことをずっと好きだ。愛してる。付き合って結婚したいくらいに。」
その私に宛てたラブレターだろう文章を読み終えた瞬間、
私の目は涙で溢れ、大声で泣いた。
まるですべての負の感情を洗い流すかのように。
私は泣きながら、自分の想いを伝えなかった後悔はまだ残っていたものの、
両想いだったということが嬉しかった。
もしも私も彼に伝えていたら、両想いで付き合うことができていただろう。
その先の結婚までもできたかもしれない。
そう考えると、もう生きている意味もないのかもしれない。
だけど彼は、お前がこの世界にいてくれるだけで十分だ。
そんな言葉を残してくれた。
だったら私はこれから精一杯生きていかなくてはいけない。
彼のいないこの世界で・・・。
そうじゃないと死んだ後に、彼に顔向けできないから
「いつかこの返事するね。」
まだ未来のことかもしれない。
だけど私は信じている。
またあなたに逢えるって・・・。
fin
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