5人が本棚に入れています
本棚に追加
『最高の可愛さが今だけ100円です』
好奇心が、私の指を動かした。
次の日、彼女はやってきた。
くっきり二重の目、高い鼻、ほんのり赤い頬と、ふっくらとした唇。髪は綺麗に整えられていて、桜色のワンピースもよく似合っていた。
まさに、理想の女の子。
不細工な私とは正反対であった。
「あの、フリマアプリで......。」
そう彼女が言った時に初めて、昨日何となく購入した『最高の可愛さ』のことを思い出した。正直本気になんてしていなかったから。
とりあえず家に招き入れて、お茶を出した。
彼女があまり綺麗とはいえない私の部屋に存在していることに違和感しか感じられなかった。しかし彼女は全く気にしていないようで、私のことだけをじっと見ていた。大きな黒目は見る者を惹き付け、女の私も恋に落ちてしまいそうだった。
彼女は私のどんな質問にも答えてくれた。使っている化粧品や、ダイエットの方法、ヘアセットのポイントなど、少し照れながらも丁寧に説明してくれた。私が可愛いという単語を口にする度に照れ、体をくねらせた。そんな仕草さえも愛らしい。神様はどうして人を平等に作らなかったのだろう、そんなことを思ってしまう程に。
2時間ほど経ち、彼女が帰る時間になった。2人で何枚か写真を撮り、連絡先の交換もした。それにしても、100円で買ったとは思えないほど楽しい時間だった。幸い、彼女にとってもそれは同じのようだ。彼女は扉が完全に閉まるその瞬間まで、とても満足そうな笑顔で私を見つめていた。
ピコン。
私のスマホが鳴った。彼女からのメッセージだった。
『今日は本当にありがとうございました。失礼な話ですが、是非また取引して頂きたいです。』
あんな美貌を持っていながら、控えめで几帳面な文章を送ってくる彼女には、非の打ち所がなかった。
『失礼なんてとんでもない。間違いなく最高の可愛さでした。機会があれば是非また購入致します。』
少し経って、返信が送られてくる。
『購入したのは私の方ですが。何か勘違いされていませんか?』
そんなはずはなかった。試しに購入履歴を見返してみる。すると、確かに買ったはずの『最高の可愛さ』がきれいさっぱり無くなっていた。そんなはずはない。私は何度もこのアプリを使ってきたが、履歴が消えることは絶対にないはずなのだ。
『何故か履歴が消えているのですが、私が100円で最高の可愛さという商品を購入したはずです。』
狐に化かされたような気分だった。でも、悪い気はしていなかった。不思議な出来事ではあるが、彼女と私を巡り合わせてくれたことには違いない。
『なんだか不思議ですね。こうして出会えたのも何か理由があるのかもしれませんね。』
返信はとても早かった。
『私も何故か購入履歴が消えていました。......ごめんなさい、とても申し上げにくいのですが。』
『私が購入したのは、1000円の優越感です。』
最初のコメントを投稿しよう!