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「気持ちわかるよ。オレもあいつらが生まれる前は母親とふたり暮らしだったんだ。母親はじいちゃんから引き継いだ小さな喫茶店を経営していたからオレも家にひとりで寂しかった」
「そうだったんだ」
いつも誰かに囲まれて楽しそうに笑う那砂くんから想像がつかない過去だと思った。
「だから少しでもそばにいたくてスイーツ作りを教えてもらったんだ。母親と接点を作るために始めたスイーツ作りだけど、今は喜んでくれる人がいるからスイーツを作るのが楽しいんだ」
胸がトクンと音を立てる。それは学校では見せることがない那砂くんの素顔にわたしが今、触れている。そう思ったら胸がぎゅっとなって、小さな音をずっと鳴らしている感覚になった。
「にぃーに出るよ」
「肩までつかって10数えてでるんだぞ」
浴室から数を数える声が聞こえてくる。
「でたよ」
びしょびしょのままたくくんが出てくると、那砂くんがコンロの火を止めて駆け寄る。
「しっかり拭かないとダメだろ」
タオルで髪の毛をくしゅくしゅっと拭かれてたくくんがキャッキャと声を上げる。
そんなお兄ちゃんを横目に見ながらきょーくんが上手にタオルで髪の毛を拭きながらたくくんの横を通りすぎる。
「パジャマくらい着てください。お姉さんがいるのに恥ずかしいですよ」
「えっ?……みっ見てないよ、大丈夫」
慌てて目を手でおおっていると、わたしの腕に小さな手が伸びて目隠しした腕がほどかれる。
「お姉さん、ボクとヒーローごっこして遊ぼう」
「女の人はヒーローごっこ好きではないですよ。それより僕に絵本を読んでくれるんですよね?」
「ボクだよ」
「僕です」
両腕を引っ張られて取り合ってくれているのが嬉しすぎて頬がゆるむ。もしもわたしがふたりいればそれぞれのお願いを聞いてあげられるのにと、はがゆい気持ちになっていると、那砂くんが「コラッ!」といいながら近づいてくる。
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