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「そっか……カップケーキが苦手とかなら無理にすすめてごめんな」
「違う……の」
しぼりだすような声は消えてなくなりそうなほど小さな声で、那砂くんがきょとんとした顔でわたしを見ている。
「もし嫌いならこれからの参考に話を聞きたいと思ったんだけど……ってヤバい!迎えに遅れる」
「迎え?」
「弟たちを保育園に迎えにいかないといけないんだ。でも話も聞きたいし……」
慌てたと思ったら眉根を寄せて難しい顔をする。コロコロと表情を変えるのがおかしくて思わずくすりと笑う。
「ん?なんで笑った?」
ごまかすように首を振った。
「そっか、保育園は駅前にあるから、そこまで一緒に帰らないか?」
わたしが……一緒に帰る?
ただ話を聞きたいだけで、なにか意味があるってワケではないことくらいわかっている。それでも心臓がドキリと音を立てる。
「ごめん。少し早く歩くけどついてきて」
言われるがまま駅へと続く道を一緒に歩いていく。きっと那砂くんにとっては特別なことではないってわかっている。それでもうるさいくらいに心臓が鳴り響いてせわしなくリズムを刻む。
「そっか……小麦粉アレルギーだったんだ」
わたしが小麦粉アレルギーを持っていることを説明すると、歩く足を少しゆるめながらなにかを考え込んでいるみたいだ。
「おからか米粉か……どっちにしてもみんなで食べられたらいいよな。母さんに相談してレシピ考えてみるよ」
「本当に?」
「約束だ。だから試作品ができたらいちばんに食べてくれよな」
「……ごめんなさい」
「そこはありがとう。だろ」
「……さっきはごめんなさい」
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