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あんな態度を取ったわたしに、わたしでも食べられるものを考えてくれて、いちばんに食べさせてくれるなんて……やさしさがじわじわと心に染みて泣きそうになるのをごまかすように唇をきゅっと引き結んでうつ向いた。
「もういいよ。気にすんなって保育園についたから。また明日な」
「あっ、うん」
手を振りながら保育園の中へ入っていく那砂くんを見つめていると、ふいに制服の裾を引っ張られた感じがして下を向いた。そこには黄色い帽子を被る小さな男の子がわたしを見上げていた。
「ねぇ、お姉さんはにぃーにのカノジョ?」
「かっ、カノジョ!?」
「違うの?」
首を傾けながら見つめてくる、くりくりとした目がかわいくて「違うよ」なんていえなくて、押し黙りながらもどんどんと顔が熱くなっていく。
「コラッ!お姉さんを困らせるなよ」
小さな男の子と手を繋ぎならが保育園から那砂くんが出てくると、わたしの傍らにいた小さな男の子が那砂くんの足にくっついて「カノジョなの?」と無邪気な顔で聞いている。
「そんなことより、にぃーにとのお約束忘れたのか?」
「忘れてない」
「にぃーにと手を繋いで……」
「歩くこと」
「保育園から……」
「飛び出さないこと」
「そうだろ。車が来たら危ないんだぞ。お約束守れていたか?」
「守れた!」
「いいえ、守れてませんよ」
それまで黙って那砂くんと手を繋ぎながら立っていた小さな男の子が口を開いた。
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