0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
物語の中で当然のように描かれる恋愛を私はいつかするものだと思っていた。
運命的な出会いをして、惹かれあってときめいて、世界が変わるような瞬間が訪れるのだと信じて疑わなかった。
どうやら違うみたいだと気付いたのは高校生の頃だった。
「ごめん、私、男の人が好きじゃないみたいなの」
高校三年生の秋、クラスメイトに告白をされた。
比較的仲のいい男子で修学旅行も同じグループだった。
でも、好きじゃなかった。好きになれなかった。
「先輩、私、あなたのことが好きです。先輩がこっちの人だって聞いて……」
酔ったという後輩の女子を送ってたのは大学三年生の夏。
顔を赤くして私に腕を絡めて上目遣いでそういう彼女を振り払った。
「私、女の子を好きにならないよ」
泣きそうな顔をしていた彼女は私ととても親しかった。
「それって、まだ好きな人ができたことないだけだよ」
社会人一年目、久しぶりに会った友人はパスタを食べながらそう言った。
「違うよ。人を好きにならないんだってば」
「確かにあんた奥手っていうか内気っていうか、大人しいタイプだよね。別に恥ずかしいことじゃないってば」
違うよ、という私の否定はもう届かないみたいだった。
世の中の歌には愛が溢れていて、大切なものは愛だって語られて、物語の中にも当然組み込まれている。
結婚は愛し合う者同士がするもので、愛は世界を救うらしい。
では、私はどうやら人間として欠陥品だそうだ。
世の中の人間は結局セックスしたがる奴らの方が正常なのか。
家族や友人は大切だ。愛を持ってると言っても嘘じゃない。
ただ、誰かを特別に想い、慕い、結ばれることを望むことが私には一生ないのだろう。
誰かの腕に抱かれたいとか、唇に触れたいとか、セックスがしたいなんて思わない。
無性愛者。
その言葉が私に一番しっくりときた。
別に私が誰のことも愛さなくても世の中に不都合はないだろう。
ただ、私も一生誰にも愛されないのかと思うと、それは少し寂しい気がした。
最初のコメントを投稿しよう!