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耳キーンが収まるとはっとした。生徒会の良心鹿くんに、こんな爛れた光景をみせてはならない。これは法律だ。
そう思って振り返ると、鹿くんは、旋真に両目を隠され、両耳を由真に塞がれていた。ばっちりだ。流石抜かりない。そこの三人で目を合わせて心のなかでサムズアップした。
しかし、キッスによって、被害を受けた人もいるようで。
「会長!爽に何をするのですか!?」
真っ赤な顔をした皐月ちゃんが、会長を睨みあげる。そうだった。皐月ちゃんは、この黒毛玉くんにヒトメボレしたんだっけ。
会長は悪びれない様子で、鬱陶しげに片目をつぶった。
「……俺が、こんなのに惹かれるとでも思うのか?惚れた腫れたも勝手だがな。自分の職務を見失うな。」
「私がいつ、職務を忘れたというのですか?」
「ならいい。」
遠くを見て、会長さんは話を打ち切った。だが、これはまずい。会長と副会長が若干不仲に見られてしまう。空気にこの学園は過剰反応しやすいのだ。どうしようかと、一瞬考えると、双子達から解放された、状況理解0%の鹿くんと、双子っちがやってきた。目を合わせて合図をとる。
「あー会長が鹿くんの教育上悪いことしたーー!いっけないんだー」
「PTAを呼べー!学園長説明責任を果たせー!」
「文部科学大臣呼べーー!法律改正しろーー!」
「……?呼べー?」
これで少し険悪な空気を誤魔化せたかな。やり方が強引なのは勘弁だ。
ブレーメンの少年隊(構成メンバー17歳以上)でくっついて抗議をすると会長さんがこちらを見た。
「お前ら、鹿のモンスターペアレントか?これぐらいでどうってことねえよ」
「会長さんと鹿くんが同じ次元だと思わないでくださーい。作画からして違いますよ。」
「作画って……漫画か何かかよ。」
「鹿くんが子供向けハッピーエンド絵本だとするならー」
『会長さんは大人向け18禁!』
「そんなところで声を揃えるな。」
軽く鼻にかけるような笑いで、皐月くんの顔が綻んだ。悪い空気ではなくなってほっとする。表情が柔らかくなった皐月くんに笑ってみせた。
「皐月くんは笑った顔のほうが似合うよね。やっぱり。」
「……えっ…な、なんなんですか?貴方はそうやっていつも口説いているんですね。」
一瞬戸惑ったような顔をしたあと、皐月くんは余裕を取り戻したような小悪魔スマイルをつくった。
「いや?皐月くんが可愛かったからそう言っただけ。」
さっきの方がいつもの慇懃無礼スマイルよりかはかわいく見えたのでそう言うと小悪魔スマイルのまま赤くなった。
「……な、か……わいい?」
皐月くんが状態異常をおこしている。どしたの一体という目でみていると、後ろから親友千廣くんが小さな声で俺にささやく。
「泉。そう簡単に可愛いって言うな。女子高生か?お前。」
「うえ?まじかよDKも使わないのかよ『かわいい』」
「俺が可愛いって言ってみたとして。どう思う?」
想像する。ケーキを見て強面の千廣くんが一言『カワイー』
「ぞわってした。」
「言っててなんだが、はっ倒したくなるな」
妙にざわついた食堂の空気の中で、俺は使ってはならない言葉を噛み締めた。
その時。
ゾクリと背中が震えた。
誰かが、俺を見ている……?
そんな確信めいた直感が俺を貫いて、体が固まった。
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