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「ご、ご褒美ですか。」
「ああ。俺を納得させるように転入生の部についても、他の予算案についても事を収めたことは評価してやる。」
じわり、と嬉しさが胸を込み上げてきた。自分の仕事ぶりをきちんと評価して、認めてくれたのだ。褒められているのだ。あの、会長さんに。俺から見ても優秀で俺の何歩も先を行くこのひとに。
それが、たまらなく嬉しい。
顔に熱が集まっているのを感じて恥ずかしく思うが、それ以上に喜びが勝って、にやけをどうにか隠すのに必死だった。
それを、じっと見ていた葦矢はふと表情を綻ばせた。一瞬の陰りを押し隠していつも以上に優しい顔をしていた葦矢に、誰も気がついていなかったが。
メインディッシュが運ばれる。柔らかなローストビーフはとろける程おいしくて、いろんなことを忘れて俺はご飯を楽しんでいた。なんだか久々にきちんとした固形物を食べた気がする。にこにこしていると、会長は咳ばらいをして切り出した。
「満足か。」
「はい!これ以上ないくらい!」
「まだデザートあるから、ゆっくり食べろ。水を差すようで悪いが一回話せるか。」
「あ……すみません。」
背筋を伸ばす。いかん浮かれすぎた。頭の中幸せハッピードリームな感じになりすぎた。会長さんをきちんと見ると、一度目を閉じてから俺のスマホを取り出した。
「見覚えあるな。これ。」
画面に映し出されているのは、俺の、歪んだ顔だった。組み敷かれているように髪の毛はソファーに垂れ。撮影者を睨む表情は赤い顔をしている。
「な、んですか。それ……。」
「お前宛に送られてきた。お前のスマホを俺が撮ったその後。…………葉露のところに行ったときに。」
そうか。葉露委員長に『嘘つき』と言われたとき。俺を押し倒したあの人は写真を撮った。むき出しの感情をぶつけられて、弱い自分を責め立てられて。苦い気持ちが広がる。必死になって働いていた間は意図して考えないようにしていたけど。
でも、なんでそんな写真を俺に。
「あいつからの牽制なんだと俺は読んだ。
…………お前は、俺とも葉露とも対立したくないと言った。それに関してどうこう言うつもりはない。だがな。
俺の物を奪おうというのなら、葉露は俺の敵だ。」
しっとりと、それでもゆるぎなく会長は言い切った。
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