六時間目 臨海学校

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溺れている相手を助けに行って溺死……なんて事故はよく聞く。だから、相手がとりあえず浮き輪に掴まってくれることを期待して溺れた皐月くんの手の届くところに浮き輪を投げ入れる。 しかし、パニックになっているのか、彼には浮き輪を掴む判断ができないらしい。水の中にいるから俺の声が鮮明に聞き取れないのもあるだろう。 今にも水の中に顔を完全に沈めてしまう。 えぇい。俺が行くしかないか。 「ごめん!持ってて!!」 その場にいたキキくんに向かって荒々しく制服のシャツを頭から脱ぎ捨てる。 その服には生徒会の証のブローチもついてる。濡らすのは弁償が怖い。 プールサイドを走る。素足に痛いくらいザラっとした感触がするが、気にしてなんかいられない。 そのまま俺はプールに飛び込んだ。 水の中で一瞬強く目を閉じてから、すぐさま周りを見渡す。自分よりはるか下に沈む皐月くんを見つけて、素潜りの要領でグッと近寄ろうと深い方へ体を向ける。飛び込み台のあるプールだから深さは5mもあって、一番下に着いてしまえば……最悪の結果だって見える。とにかく素早く、冷静に。 手を伸ばすがなかなか距離は縮まらない。息が少し足りなくなってきた。でも1回呼吸をしに戻れば、もう届かなくなるだろう。皐月くんに気がついてもらえないか?と考えたが目を閉じてしまっているようで俺の存在に皐月くんは気がついていないみたいだ。しょうがない。俺は手が届く範囲に入って躊躇なく皐月くんの体を抱き寄せた。 細くて俺より軽そうな体。触れた瞬間ぱっと目を開いた。驚いた顔をしたのは見えたが、水の中じゃ声は聞こえない。パニックになって共倒れは最悪のケースだから避けたかった。 俺の手から逃れようとしてかいきなりもがき始める皐月くん。混乱している様子は手に取るようにわかるが抑えなくては。水中にいるのを忘れ、なにか言おうと口をかぱりと開いた皐月くんに、俺は無理にでも笑って。皐月くんの唇を閉じた。……人差し指で。 これ以上酸素を減らされてはたまらない。しっかりと目を見つめれば、皐月くんはピタリと動くのをやめた。いい子だ。 脇の下に手を通して抱えるようにして水面にあがっていく。キラキラとした水面にはぼんやりと浮き輪が見えた。そこを目指して片手で水をかく。今更ながら制服のスラックスが邪魔だ。それでもどうにか水面に顔を出して俺が先に、引っ張りあげるように皐月くんが水面に顔を出した。 掴んでいた手で、皐月くんを浮き輪へ誘導する。どうにかしがみついたところを確認してから、その浮き輪ごとプールサイドへ引っ張った。 岸で待っていた千廣が、俺たちを引っ張りあげてから、くしゃりと顔を歪ませた。 「ナイスアシスト千廣」 「無茶すんな馬鹿泉」 そう告げたと思うと周囲がザワザワと大きな声で包まれた。
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