六時間目 臨海学校

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「なんだ!飛び込んだのか久瀬!?」 最初に到着したのは体育教師。この教師、柔道でオリンピック強化選手に選ばれるほどの実力者で、選手としては有能だったのだろうが……なにぶん勘違いと思い込みが激しい。熊のようなビジュアルに30過ぎの男のドジっ子属性は萌えない。 どうしたものかとため息をつくと皐月くんが咳ごんだ。 「あっ皐月くん異常は?どこか気分が悪くなったりは」 「だい、大丈夫です。少し水を飲んだだけで、それより……」 「水飲んだならちょっと口ゆすいだりしたいよね。保健室行く?」 背中をさすると顔を赤くしながら首をぶんぶん振る。泳ぐの苦手なのに、溺れたらだいぶしんどいだろう。大事をとって休憩させてあげるのが筋だ。 「じゃあちょっと休んでてね。」 「あの、すみません……センリ。私が溺れたばかりに……」 「気にしない気にしない!皐月くんが無事ならそれでいいよ。」 そんなことを小声で話していると、体育教師が「おい久瀬説明しろ」と大声を出した。ほっとかれて寂しかったのかな?と菩薩のような笑みを浮かべ、対応しようとすると皐月くんが俺の腕を引っ張って耳元に唇を寄せた。 「私に説明させてください。貴方が叱られるのは……」 「でも皐月くん。押されてたよね」 小声で、しかしはっきりと言えば。 皐月くんは目を見開いた。自覚はあったみたいだ。 「いえ、足を滑らしたんです」 「俺が見てなかったと思う?押されたってわかれば先生絶対大事にするよ。学年集会をして犯人探しするくらいに。そういうの皐月くんは嫌でしょ?」 皐月くんがこの事態をできるだけ広めないで決着つけようとしていたのは気がついていた。自分がプールで溺れたことを叱責されるよりも、誰かに故意に、悪意を持ってされたことを取り上げられる方がプライドが傷つくんだろうということも。 それなら俺が少し手助けしたっていい。だって仲間だもん。 「いい感じに言い訳しとくから、皐月くんは休みな。」 「言い訳って一体何を言うんです?」 「うーん。今から考える!」 ニコッと笑って頭をぽんぽんと撫でる。子供っぽい動作かもしれないけど、パニクって取り乱した皐月くんは、後でめちゃくちゃ落ち込んですみっコぐらしなるので元気つけたかった。 俺が何言おうかなーと先生の方に振り向いた瞬間、激しい光とパシャッという音が。 目を開けばカメラを構えた3人組が。 「我ら新聞部!チャラ男会計様の上裸写真ゲット!」 「風呂上がり風びしょ濡れショット激写!」 「こいつは売れるぞ!部長にに連絡だ!!」 おいこら。カメラ小僧共。そこ正座しろ!
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