六時間目 臨海学校

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緒環先輩は相変わらず読めない表情で首を傾げてはいたが、諦めたように頷いた。 「ふーむ。なんだかよく分からないが、紫眩先生は会計殿のどこが好きなんだぃ?」 そう聞くと紫眩先生はニコ、と笑った。 「今から5時間くらい時間ある?」 「あっ……えと、すみません。1番好きなところだけでいいです。」 すごい。あの緒環先輩を敬語にさせた。 「沢山あるけれど。一言で言うのならとても律儀で可愛いところかな。」 ぐりぐりと容赦なく撫でる先生が纏う匂いがフローラルすぎてびびる。実家の姉の匂いに似てる。乙女だなぁ……。 「親衛隊長になったきっかけは秘密だけど、出会ったのは普通に学園で泉璃ちゃんが体調を崩した時なのよ。去年の5月くらいかしら?」 「そう……ですね。あの時はほんとに、お世話になりました。」 「いいのよ。きっかけはどうあれ、貴方に出会えたんだから。」 男前なんだよなぁ言うことが。ビビるほどの美人だけれどどこか堂々とした先生がクスクス笑った。  去年の5月のあの頃。俺は毎日寮で吐くことが日課の生活をしていた。頭ではわかっている。食べないと動けない。まともに考えられない。しかし無理矢理に食べた甲斐もなく深夜に全てを吐き戻す。当時同じ寮の部屋は千廣だった。だからこそ、心配かけたくなくて1人で吐いていた。ひとえに俺のメンタルの不調だ。いつも通り明るくみんなの前では振る舞ってた…つもりだったのだが。  どうしてだか、養護教諭の紫眩先生にはバレてしまっていて。時間をかけて俺と話をしてくれた先生のお陰で、今はそんな症状はない。 「頑張り屋さんで、真面目で、1人で突っ走るところは心配になるけれど。いつも見ていて可愛くて仕方ないの。だからアタシは泉璃ちゃんが好きなんだわ。」 「会計殿が本気で照れると、無言になって赤くなるのだな。ふむ……」 緒環先輩に言われるくらいには照れて小さくなって俺は俯いた。無償でこんなに褒められることなんてないのだ。恥ずかしさで消え入りそう。 すると今度こそ、蚊帳の外にされた八千草先輩が話に入ってきた。 「なぁ。そのお披露目のためだったらさっさと出ていけ久瀬ぇ。」 「あっもしかして根に持ってます?生徒総会でお手伝いお願いするために脅し………」「ば、馬鹿野郎!喋んな!!」 八千草先輩が俺の口を抑えてくる。 この八千草麟という先輩。まぁ見ればわかる通りに、貞操に関する考えが夏場放置されたソフトクリームくらいゆるゆるで、取っかえ引っ変え手を出すビュッフェ形式の人なのだが。 紫眩先生が好きなのである。 見てわかるくらいに大好きなのである。 そしてそれを隠せてると勘違いしてるのである。 いやぁ面白いね。
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