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八千草先輩の恋心を利用するのは気が引けるけれども、紫眩先生の好きなものとよくいるカフェを教えることを条件に手伝っていただいたというのが生徒総会の裏側だったりする。
ひとえに本命に奥手だった上に、俺が遠慮なくめんどくさいことを頼めるほどにちょっかいを常日頃かけてくる八千草先輩が悪い。
八千草先輩が口を押えているうちに、紫眩先生はこちらを見て少し真面目な顔になった。
「そういえば、溺れてた風見なんだけれど。特に異常はなさそうだよ」
「あぁ良かった。なんかメンタルとかは……?」
「落ち着いてるみたいだから、まぁ何かあったらフォローするわ」
「すみません。ありがとうございます。」
その様子に緒環先輩は首を傾げた。
「もしや会計殿。怪我人の情報を逐一紫眩先生から貰っていたりしないよな?」
「全員じゃないですよ。ある程度聞いてるだけです」
「それは一体何故に?」
「知らないと何か起きた時対処出来ないでしょう?」
全校生徒の把握なんてできっこない。
けれど、無知は罪だ。
生徒会のメンバーという立場を考えれば、知らぬ存ぜぬは職務怠慢だし、学園のことは基本全て知っていて当然。そう教えたのは俺の教育係であった会長さんである。
「俺に言わせりゃ、お前はどこの母ちゃんだと思うがね」
八千草先輩はそう言って面倒くさそうに頭をかいた。
「自己責任だろうがガキじゃあるまいし。」
「保健委員長としてそれはどうなのよ八千草」
紫眩先生は目をとがらせるが、飄々として揺るがず八千草先輩は言葉を重ねる。
「病気も事故もどっちも無い方がいい。そりゃそうだ。けど、自分が起こすことのリスク管理も出来ねぇやつのことをみんながフォローしましょう。出来る人が助けましょうだなんて、笑わせる。
…………お前もだぞ久瀬。」
ギロ、っとこちらを見た彼は脅すような低い声で言った。
「お前は生徒会メンバーでお偉くて、有能で、上から皆を支えられるとでも思ってるんじゃねぇか。そしてそうやって頑張ってる自分に酔って悲劇のヒロインでも演じてるんじゃねえか。
……人の為に動いてしんどいからみんなに助けて貰ってる?自分のやることのケツモチも出来ないのに他人にまで手を出すな馬鹿が。」
痛烈な一言を真正面から受け止めて、俺は下を向く。八千草先輩はセーターの伸びた袖から指を指す。
「ソレ。自分で対処出来ねぇとか言わねぇよな。」
その指の先は真っ直ぐに俺の左足をさしていた。
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